先日発表された中国の2014年1~3月期の実質GDP成長率は、前年同期比7.4%の低い伸びにとどまった(※1)。もっとも低い伸びといっても、日本の成長率に比べればはるかに高い(※2)。一国の景況を見る場合、何をもって好不況を議論すべきであろうか。こういう場合、潜在GDPが基準となる。


潜在GDP(potential output)とは中期的に持続可能な経済の成長軌道をいい、実際のGDPとこの潜在GDPとの乖離を表したものをGDPギャップ(output gap)という。また、中期的に持続可能な経済成長率を潜在成長率(potential growth rate)という。


現在の潜在成長率は中国が8%台(※3)、日本が1%程度(※4)と考えられている。今、仮に中国で6%成長、日本で3%成長が続いているとすると、中国は潜在成長率に達していない不況で、他方、日本は潜在成長率を上回る好況であるといえる。


中国と日本では経済の発展段階が全く違うので、潜在成長率に大きな差があっても当然である(日本が先進国の中でも低いことは問題であるが)。一般に、経済発展の初期段階にある国々の方が、成熟した国々よりも潜在成長率は高い。だが、経済発展の初期段階にあるにもかかわらず、潜在成長率が低下していく場合もある。その顕著な例が近年のベトナムだ。その原因をいくつか見てみよう。

図1 ベトナムの潜在成長率の推移

図1では潜在成長率を労働投入、資本(人的資本・物的資本)投入、および全要素生産性(Total Factor Productivity, TFP)(※5)の寄与度に分解している。


まず、寄与度の大きい物的資本について見てみよう。ベトナムの投資率(GDP比)は2007年の42.7%を頂点にその後低下し、2012年には30.5%まで下がっている(図2)。また、その所有形態別の構成を見ると、2012年でも国家部門が投資の37.8%を占めており、民間部門(38.9%)とほぼ同等の大きさである。つまり、投資率自体が大きく下がっているのに加え、その4割近くがいまだに民間に比べ非効率と考えられる国家部門によって担われているということだ。

図2 所有形態別投資(GDP比)

次に、減少率の大きい全要素生産性について見る。全要素生産性に影響を与える要因は様々あるが、ベトナムで特に目立つ要因の一つは研究・開発(R&D)への支出だ(図3)。ベトナムのR&Dへの支出(GDP比)はかなり低いが、同様に低いタイや、さらに低いフィリピン、インドネシアよりも全要素生産性の伸びは低い。つまり、R&Dへの支出がそもそも少ない上に、それが非常に非効率的なわけだ。ここにも国有企業の存在が影響している可能性がある。世界銀行のレポートには(※6)、国有企業は民間企業に比べ優先的に政府のR&Dにアクセスできるとあり、こういう点がR&Dの非効率性につながっているのかもしれない。

図3 研究・開発支出と全要素生産性の関係

このように、国有企業がいまだに大きな存在であることが、ベトナムの潜在成長率の低下の大きな要因になっているのではないかと考えられる。IMF・世界銀行では常々ベトナム政府に国有企業改革を促してはいるものの、改革は遅々として進まない。


アベノミクスでは、第一、第二の矢である金融・財政政策よりも、第三の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」こそが重要であると言われているが、ベトナムにおいても国有企業改革などの構造改革こそが今後の成長への重要な鍵である。


(※1)中華人民共和国国家統計局、「2014年1季度GDP(国内生产总值)初步核算情况」、2014年4月17日。
(※2)日本の2013年10~12月期の実質GDP成長率は前年同期比2.6%であった。内閣府、「四半期別GDP速報 時系列表 2013(平成25)年10~12月期」、2014年3月10日。
(※3)Lous Kuijs, “China Through 2020 – A Macroeconomic Scenario”, World Bank, 2010.
(※4)内閣府事務局資料、「潜在成長率について」、内閣府「選択する未来」委員会 第2回会議資料、2014年2月14日。
(※5)全要素生産性は、技術進歩など資本と労働の増加によらない生産の増加を表す。
(※6)World Bank, Vietnam Development Report 2012: Market Economy for a Middle-Income Vietnam, 2011.

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