アジアンインサイト
ミャンマーにおける教育ビジネスの可能性

2013年12月26日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント ナン ミャ ケー カイン

今から25年前の1988年以前のビルマ社会主義時代の教育環境、軍政下の教育環境、現在の教育環境、それぞれの特徴を概観し、今後の可能性を探る。筆者自身は、現在の教育環境に新たに起きている私立学校の登場が国の重要な分野である教育環境をより良い方向へ導いてくれることを大いに期待している。

まず、これまでのミャンマーの教育システムを概観する。基礎教育は、幼児学級1年、小学校4年、中学校4年、高校2年の11年間という位置づけである(※1)。昔も今も一貫して共通しているのは、ミャンマーの子供たちは5歳から学校に通い始めるという点。そのため、1988年以前までは、16歳で高校を、20歳で大学を卒業し、21歳から就職していた人もいた。これは順調に進級できればという話だが、当時は学期末に学級ごとに試験が実施され、100点満点中40点以下だと不合格となり、一科目でも不合格となれば進級できないというシステムだった。また、全科目を合計した総合点数によって成績の順位が発表される、という競争的な教育環境が存在していた。また、中学校に入ると「チュシン(Tuition)」と呼ばれる塾に通い始め、高校を卒業するまで塾通いが続く。自分が通う学校の先生の塾に通う子もいれば、近所の塾に通う子もいた(※2)

公立学校 写真1.公立学校

ところが、1988年の全国規模の民主化運動が起きてから教育環境が一変した。88年9月にクーデターによって軍が政権を掌握して以降10年もの間、学校は閉鎖と再開を繰り返した。一番長く閉鎖されたのは、高等教育機関である大学で3年間も継続して閉鎖されていた。この影響により大学のカリキュラムを短縮して通常4年間通う学部を通算1年から1年半で卒業できるような措置がとられた。さらに、大学のキャンパスをヤンゴン市外の3か所に新設して、学生が集まってデモ隊の結成が容易にできないよう分散させた。また、これまであった遠方からの学生向けの寮も無くした。その結果、遠くへ通いたくない富裕層の子たちは、ヤンゴン市内に残されたヤンゴン外国語大学や遠隔教育大学(The University of Distance Education : UDE)(※3)を優先することになった。

その影響で遠隔教育機関に移籍したり入学したりする学生などで在籍数は1987/88年の38,050名から2002年には228,384名へと6倍にも急増した(※4)。教育内容は、医学、工学、コンピューター学以外は遠隔教育で対応している。それぞれのコースで教科書に沿って教員が学生の進捗に応じて課題を郵便で送り、学生がその課題に解答し郵便で送り返す。このような課題を年間16こなすことになる。年末試験の2週間前には集中講義を受けた上で試験に挑む。その他には、ラジオによる講義とテレビによる授業が放送される(※5)。このような軍政下の高等教育機関の長期的な閉鎖、カリキュラムの短縮、遠隔教育大学への学生の流動化などにより大学教育の質が著しく低下した(※6)

このような教育の質の低下は高等教育のみならず基礎教育レベルにも及んでいる。軍政下になる前は中学から始まる塾通いが、軍政下では小学低学年から始まるようになった。また、大学に入っても高等教育の質の低下によって大学生でさえ塾通いをするという、前代未聞の状態が今起きている。このような事態を補強するかのように、これまでは正式に開業できなかった塾が市場経済へ移行する政策路線の変更とともに、民間のサービス業として開業を許されるようになった。そのため、「チュシン(塾)」業を始め私立学校も開校できることになり、これらの教育機関はサービス業として登録し、教育分野にビジネス機会が生まれた。これにより小人数で家庭教師のようなクラスを持ち回りしていた大学教員が職を辞めて塾を開業する人もいた。このような塾は、主に公立学校の補完的な存在で、基礎教育11年目に受験する大学入試の準備に通う。高校生ならばこのような塾通いするのは当たり前な社会になっている。そして、受験生のいる家庭は受験生を中心に家庭の行動が決まるという、日本でもよく見られるような現象がミャンマーでも起きている。この分野への日系進出の先駆的な事例として「公文」が挙げられる。

私立学校 写真2.私立学校

もう一つの教育ビジネスは、公立学校の代替としての私立学校である。英語の幼稚園や保育園、公立学校とは異なる独自のカリキュラムを英語で教える基礎教育機関、外国資本と地元との合弁会社形態を取る短期大学、ミャンマーの大学と提携した社会人向け教育機関(例えば、MBAなど経済に関連する学位を授与する)、コンピューター・会計・語学などを学ぶ専門学校等が次々と現れている。このような私立の教育機関がヤンゴンだけでなく国内各地に存在し、2007年時点で216の機関が存在している(※7)。基礎教育機関の代替を担っている主な私立学校に、International Language and Business Centre (ILBC)、Network International School、International School of Myanmar (ISM)、Horizon International School (HIS)、Yangon International School (YIS)などがある(表1)(※8)。これらの学校では英語をベースとした独自のカリキュラムをもつ。ILBCに通学する生徒たちの多くはミャンマー人で、政府高官の子供をはじめとする富裕層の子供たちである。その他の私立学校では一部ミャンマー人を含むが主として外国人の子供たちである。通常の年間授業料は小学生300万チャット(約3,000米ドル)、中学生480万チャット(約4,800米ドル)、高校生600万チャット(約6,000米ドル)(※9)と高額に上る。しかし、ミャンマー人富裕層はこう考える。公立学校と比べて塾通いをしなくて済む点、英語が母国語のように話せるようになるという点においてとても魅力的だと。とはいえ、政府はこのような私立学校を正式な教育機関として認可していないため、私立学校を卒業した後はミャンマー国内の大学に進学することはできない。つまり、私立学校の高校を卒業した子は、国外の大学に留学するという選択肢しかない。しかしながら、私立学校の卒業生の中には、1-2年間ミャンマー国内で留年して海外の大学受験に挑む人、親の支援が継続不可能となり海外留学を諦めて国内でビジネスを始める人などがいる。

いずれにしても、上述したようにこれまで苦悩に満ちた教育環境に置かれていたミャンマー人の富裕層は自分の子だけには良い教育を受けさせてあげたい、と一倍強い熱意を持っている。このような背景が何より潜在需要の高さを示している。このような教育分野における外資企業を含む民間事業の進出が、ミャンマーの子供の教育機会を拡大し、より良い教育を受けて成長した人材がミャンマーの発展を持続可能にするならば、国際協力としての人材育成分野への貢献ともいえよう。

ミャンマーにおける一部私立学校の概要(2013年12月20日現在)

(※1)ミャンマーでは2000年から高校までの11年間を基礎教育とし、大学以上の教育を高等教育としている。増田知子著「ミャンマー軍事政権の教育政策」、工藤年博編『ミャンマー軍事政権の行方』調査研究報告書、アジア経済研究所、2010年、5-1~5-20ページ。
(※2)学校の教師は公務員であり、副職をしてはならない。しかし、低収入の公務員の給料体制では「チュシン」という塾が家計を助けるばかりか、副収入が本業の収入より何倍も多いこともある。それを目当てに有名な学校の教師を目指す人もいる。このような状況は今も基本的には変わっていない。
(※3)1970年代から郵便、ラジオ、1981年以降はテレビなどを通じた通信教育が実施されてきたが、1992年には遠隔教育大学としてヤンゴンとマンダレーを中心に全国32のキャンパスに整備された。
(※4)Central Statistical Organization, Statistical Yearbook 2005, 2007 March, p.369.
(※5)増田(2010)、5-12ページ。
(※6)ちなみに、ミャンマー国内の国立大学に通う学生数は遠隔教育大学を含めて約64万人(軍関係大学は除く。)で、基礎教育の在学生数は約820万人(2009/10年度 Statistical Yearbook 2010による。)である。
(※7)増田(2010)、5-17ページ。
(※8)ILBC(International Language and Business Centre)は認知度が高い。ILBCの創設者はミャンマー人で、最近YIS(Yangon International School)を新たに設立した。
(※9)これはILBCの年間授業料であり、筆者のヒアリングによる。

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