アジアンインサイト
外国人技能実習制度と日本語教育

2013年12月19日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 寺谷 宣夫

(ベトナム)
先日ベトナムへ行った。インフラが遅れているが街には活気がみなぎっていた。ハノイ市内の状況は80年代半ばの中国の状況に似ていると感じた。電気や道路などインフラ整備の遅れは経済発展の障害となる。民間企業レベルでは解決できない問題であり国によるインフラ整備の充実を望むところだ。

道端の電柱には電線と電話線がぐるぐる巻きになっていて、それらが電柱からぶら下がっていて蛇が20匹くらい絡みついているかのようだ。市内ではオートバイが多くバスは少ない。オートバイには二人乗りのほか、子供を背中におぶっての三人乗り、四人乗りもみられる。空気が悪いからヘルメットのほかにマスクをしている。夕方の街中の渋滞はひどかった。鉄道は長距離輸送が主体とのことで街中では鉄道の機能は発揮されていない。

(ベトナム人の労働紹介業者)
飛行機で隣に座ったベトナム人と英語で話が弾んだ。出発間際に二人組で乗り込んできた元気のいい人だ。彼は人材を送り込むことを業としており、日本の中部地方の「Kumiai」(組合)に労働者を300人ほど送り込んでいるとのことだった。農林水産、建設、縫製業がメインであり、今回は10日間の滞在だったとのこと。外国人技能実習制度の活用事例だ。

(技能実習制度)
日本へ出稼ぎに行って金を貯めたい、という外国人労働者のニーズと、3Kで人手不足に悩む日本の地方産業のニーズを結びつける仕組みだ。建前は外国人労働者が日本での実習を通じて日本の産業、職業上の技術・技能等を修得し、実習終了後母国に戻ってからその習得した技術・技能を使って母国の経済発展に資する、というものだ。

ただし技能実習の現場では、雇用主と外国人実習者との間に意思疎通での齟齬や誤解が生じ、実習生が雇用主を殺めたという事例が起きており、実際の実習現場での制度の運用は簡単な話ではないと感じる。外国人とそれを受け入れる社会との間で摩擦がおきるのは仕方がないと思うが、それを最小限に抑える必要がある。日本で暮らす外国人にとっては、日本語能力の欠如は大きな障害となる。大きな障害があると摩擦が不可避となる。

(これからは外国人労働者の受け入れを拒否できなくなる)
今後日本は少子高齢化が進行し労働力が減少する。国力の発展を維持するには、女性や高齢者の労働市場への参加を増やすことのほか、外国人労働者の受け入れ、も真剣に考えねばならない。できるだけ外国人を排除したい、という従来のやり方では日本経済が立ち行かなくなる。

(上手に共存できる制度をつくるべきだ)
外国人労働者の受入を拒否できない、ということであるならば、むしろ外国人労働者と上手に共存できる仕組みを積極的に作りだすべきだと思う。双方がともに円滑に受け入れ可能な制度を考えるべきである。現在の技能実習制度は最長3年間の滞在を認めるものであるが、実習終了後は母国に帰ることが前提として設計されている。在留資格の認定にあたっては、特に「一定の日本語能力水準を備えていること」が求められているわけではない。最長3年で母国に帰るのだから、という滞在期間が限定されていることが日本語能力の具備を義務付けていない理由の一つなのだろう。

繰り返すが、外国人労働者が長期間にわたって日本社会で日本人と共存できるような制度、仕組みを設計すべきである。その為には、外国人労働者に対して一定水準の日本語を習得してもらうことを義務付けるべきだ。義務付けるにあたっては、体系的に日本語を学ぶ仕組みを充実させるべきだ。また外国人労働者を受け入れる日本側にも、外国人労働者に対して一定レベルの日本語教育の実施を義務付けるべきである。まずは日常生活レベルで困らないようにすることに加えて、こまかなニュアンスまで表現できるような上級レベルまでの学習も可能にする必要がある。

(ベトナムの友人の例)
私の知っているベトナム人の若者は、ベトナムの大学を卒業した後技術者として日本の中小企業に就職した。当初日本語は全くできなかったものの、日本の同社において二年間にわたる業務研修を受けたことにより、同社製品に関しては製造から実際の使用方法にいたるまでを完璧にマスターした。だが日本での研修期間中は業務が忙しくて日本語学校へ通う暇がなく、日常業務を通じることのみで日本語を学んだとのことである。彼の今の日本語のレベルは、日常生活には困らないレベルにはあるが難しいニュアンスになるとお手上げである。

彼は同社のベトナム業務の中核を担う人材であるので、日本本社との意思疎通を滞りなく行う為には、今後一層の日本語能力の向上が望まれる。現地の状況の日本本社へのフィードバックや、今後の対策、方針を議論する場合には、円滑に意思疎通ができるかどうかが重要となる。

(望むこと)
一つ目は、今後日本においては外国人労働力の受入が不可避であると考えるが、そうであるならば受入れるべき外国人労働者に対してより高いレベルの日本語教育を義務付けるような新たな制度設計を望みたい。ただし義務付けるだけではなく、きちんと日本語を学習できるような環境整備も同時に必要である。

二つ目には、現地人材に関する日本語教育に会社として注力を望みたい。中小企業の海外展開において現地人材を中核人材として活用することが大切であると考えるが、双方間での円滑なコミュニケーションができることが不可欠である。日本側トップが現地言語または英語の高い能力を備えていれば問題ないが、そうでない場合の方が多い。その場合は、現地の中核人材に日本語をしっかりとマスターしてもらう必要があり、会社として真剣に日本語学習の後押しをすべきだ。そうすることが日本本社と現地との間での円滑な意思疎通を実現させ、ひいては業績の向上につながるからだ。

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