アジアンインサイト
日本農業の新たな国際展開の可能性

2013年6月14日

  • アジア事業開発グループ コンサルタント 高田 直也

我が国の農業振興に向け、様々な支援策が講じられている。しかしながら、担い手の減少には歯止めがかからず、平成19年に202万人であった基幹的農業従事者数は平成24年に178万人へと減少した。また、基幹的農業従事者の平均年齢は、平成19年に64.6歳であったが、平成24年には66.2歳となり、高齢化はより深刻化している(図表1)。耕作放棄地の増加も大きな課題として指摘されており、その面積は平成22年時点で40万ヘクタールに達している。

図表1.基幹的農業従事者数および平均年齢の推移
図表1.基幹的農業従事者数および平均年齢の推移
(出所)農林水産省「農業構造動態調査」
注)基幹的農業従事者とは、農業に主として従事した世帯員のうち、普段の主な状態が「仕事が主」の者をいう。

既に我が国は人口減少局面を迎え、また、少子高齢化も相まって、これから国民の胃袋が大きくなるシナリオは描きにくい。実際、農業部門のGDPについてみると、図表2に示すように、平成18年に4兆9,910億円であったが、平成23年には4兆6,025億円へと減少していることから、国内農産物市場の拡大にはやはり限界があろう。

図表2.農林水産部門におけるGDPの推移
図表2.農林水産部門におけるGDPの推移
(出所)内閣府「国民経済計算年報」より大和総研作成
注)数値は名目値。

他方、我が国の農産物は、安全・安心かつ高品質化を目指した生産が各地で取組まれてきた結果、アジアの高所得層を中心に高い評価を受けている。例えば、近年では、香港、タイ、台湾などに向け、リンゴ、イチゴ、ナガイモなどの農産物輸出が実績を上げている。日本産農産物の輸出を支えているのは、長年の積み重ねにより培われた栽培技術体系であり、収穫後の鮮度を維持させるポストハーベスト技術体系(※1)である。とりわけ、農業の現場では、水管理、施肥、病害虫防除などの局面において、その時点の状況に応じた臨機応変の対策が不可欠である。

この意味において、我が国の農業生産に関する技術体系は、付加価値を生み出す「知的財産」として看なすことができるだろう。すなわち、農産物そのものの輸出を促進する取組み(※2)と同時に、我が国の農業技術パッケージを提供し、その対価を適正に受け取るスキームの構築を目指すべき時期にあると思われる。

例えば、世界におけるコメの生産における我が国の位置づけを確認してみると、2011年時点の生産量は840万トンに過ぎない(図表3)。これに対し、コメ生産量の第1位は中国で2億267万トン、第2位はインドの1億5,570万トン、第3位はインドネシアの6,574万トンとなっており、我が国を遥かに凌駕している。また、上位10カ国のうち、ブラジルを除く9ヵ国はアジアに位置する。

図表3.上位国におけるコメの生産量(2011年)
図表3.上位国におけるコメの生産量(2011年)
(出所)FAOSTATより大和総研作成
注)生産量は籾ベース。籾ベース1トンは精米ベース660kgに相当する。

稲作圏においては、我が国の農業機械メーカーが長年培ってきた技術を活用できる余地が大きい。稲作はアジアを中心に営まれてきたこともあり、欧米系の農業機械メーカーとの技術力の差は歴然としたものがある。ここに栽培のノウハウやポストハーベスト技術を組み合わせることで、大きな付加価値を生み出す可能性を検討すべきではなかろうか。このような可能性は稲作(コメ)に限らず、他品目についても議論する余地があろう。

もっとも、我が国の食料自給率はカロリーベースで39%(平成23年度)という水準にある。栽培技術やノウハウの安易な海外への提供は、海外農産物の対日競争力が高まり、日本農業の命取りとなる可能性も否定できないため、対策は十分講じられる必要がある。
かつて国内のみを対象としていた我が国の水道事業や高速道路事業などにおいて、建設から維持・管理までをパッケージとした輸出が検討される時代である。さらに、今年は、知的財産戦略本部が内閣に設置(平成15年3月)されてから10年という節目に当たる。我が国の「強み」と「弱み」を認識しつつ、中長期的な国益を見据えた包括的な議論を期待したい。


(※1)ポストハーベストとは、収穫後のプロセス(選果、予冷、貯蔵など)をいう。
(※2)現在、日本政府は「2020年までに農産物輸出額を1兆円にすること」を目標としている。

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