観光客誘致の呼び水となるか、フィリピンのカジノリゾート開発

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アジアのカジノ地区と言えばマカオを思い浮かべるかもしれないが、昨今注目を集めているのはフィリピンである。フィリピンでは今、国家プロジェクトとしてマニラ湾沿岸の埋立地に世界最大級のカジノ複合リゾート施設の建設を進めている(通称:エンターテインメント・シティ・マニラ)。総面積120万平方メートル、東京ディズニーランドの2倍強の広大な敷地には、カジノ、高級ホテル、シアター、富裕層向けレジデンス、最新のコンベンションセンターなどが集積する予定である(図表1)。国営のフィリピン娯楽ゲーム公社(PAGCOR)は、日系企業を含む4社にカジノの営業許可を与えており、総工費は50億ドル(約4,000億円)にのぼる。

図表1:「エンターテインメント・シティ・マニラ」の概要
図表1:「エンターテインメント・シティ・マニラ」の概要
(出所)PAGCORのウェブサイトや各種報道より大和総研作成


フィリピンがこのような巨大カジノリゾート開発に注力する理由は、カジノを呼び水として海外からの観光客を取り込むことで、観光業の活性化と雇用の創出を図り、国の経済成長につなげたいためである。フィリピンは自然の観光資源に恵まれながら、観光客数は近隣他国よりも低調である(2010年は329万人)。PAGCORは建設中の施設が全て開業すればさらに100万人の観光客が見込めるとし、2016年までに年間100億ドルのカジノ収入達成を目標に掲げている。これは、2010年の世界カジノ市場の約1割に相当し、米国ラスベガスに匹敵する規模である(図表2)。

図表2:カジノ収入の国・地域別構成比(2010年)
図表2:カジノ収入の国・地域別構成比(2010年)
(注)2010年の世界市場は1,176億ドル。米ネバダ州(ラスベガスなど)は104億ドル、フィリピンは5.58億ドル。
(出所)PwC「Global Gaming Outlook」より大和総研作成


アジアではシンガポールなどにおけるカジノ事業の成功事例があり、フィリピンはこれを追随する格好となる。シンガポールでは2005年にカジノが解禁され、2010年に外資により2軒のカジノ複合リゾート施設がオープン。一つは、ターゲットを家族に絞りユニバーサル・スタジオなど娯楽施設を豊富に抱える一方、もう一つは、ターゲットをビジネスマンなどとして会議施設や斬新な外観の空中庭園「サンズ・スカイパーク」など注目スポットを多数展開している。ゼロからスタートしたシンガポールは2011年55億ドルの収益をあげるまでに急成長し、観光客数も躍進した(図表3)。外資によるカジノを含めた総合型リゾートの展開と、経済成長著しい中国などアジアの中間層・富裕層の観光客が大きく貢献している。

現状では先行国と比べコンテンツの魅力に欠ける点や、構想発表から4年経ったにもかかわらずスピード感に欠ける点が懸念事項ではある。とはいうものの、フィリピンにおいても、上述のプロジェクトが計画通りに進めば、観光客数の増加、雇用創出による失業率の改善、税収増などにより、フィリピン経済へ一定のプラス効果が期待できよう。

図表3:海外からの観光客数の推移
図表3:海外からの観光客数の推移
(注)マカオ、フィリピンの2010年の数値は未公表。
(出所)世界銀行より大和総研作成


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