2012年の経済運営は「穏中求進」
2011年12月に開催された中央経済工作会議(毎年末に開催され、次年度に向けての経済運営の基本方針を議論する、経済関係では最重要と位置付けられている会議)のキーワードは「穏中求進」、「穏」は「穏政策」、「穏増長」、「穏物価」、すなわち穏健なマクロ経済政策の維持、比較的高い安定的な経済成長の維持、そして物価の安定を象徴し、「進」は経済発展が戦略的な段階に入る中で、発展方式の転換で新たな進展を図ること、改革開放深化の面でのブレークスルー(突破)、および国民生活(民生)改善を示す。

同会議は、中国経済のスローダウンの兆しが見られる中で、(1)中国当局が伝統的な成長重視の姿勢を改めて示したこと、(2)会議公表文書は、特に2012年開催予定の第18回共産党大会に向けて、良好な経済環境を作ることの必要性が述べられており、指導層交代を控えているという政治的側面が、そうした成長重視への回帰の大きな要因になったことをうかがわせること、(3)他方で金融政策については、金融緩和への踏み込んだ言及はなく、また不動産投機抑制策についても「不動産価格が妥当な水準に戻るまで堅持」するとしている点は、なおインフレ圧力に対する警戒を解いていないこと、(4)「進」に示される構造改革については、特に重点分野の改革深化として、金利の市場化、為替相場形成の改革(人民元相場の弾力化)、および資本市場の育成等が強調されていること、が特徴的と言えよう。

「老齢化」:「人口紅利」から「人口債務」へ、中国の難しさは「未富先老」
昨年4月に第6次人口普査(日本の国勢調査にあたる)の結果が発表されたこともあり、ようやく中国でも急速に進む高齢化の問題にどう対処すべきか、真剣に検討されるようになった。経済発展に伴う高齢化は、世界的に見ても普遍的な現象であるが、中国の特異さは、「未富先老(豊かになる前に高齢化社会を迎える)」という点に凝縮される。社会科学院の人口問題研究者によれば、改革開放が始まった1980年初以来、被扶養人口(子供、高齢者)の生産労働力(16-64歳)に対する比率は低下し続け、これが1982-2000年の間の一人当たり所得増に寄与した割合は26.8%にのぼるが、保守的な推計を行っても、同比率は2013年に底を打ち、上昇し始める見込みである。これは過去30年間享受してきた「人口紅利(人口ボーナス)」が終わりを告げ、老齢化がむしろ成長の足を引っ張る「人口債務(人口オーナス、または人口タックス)」の時期に入っていくことを意味する。こうした人口の動き自体は、世界的に広く見られるが、中国の場合、まだ経済が成熟していない段階で、人口面では成熟した局面を迎えることになる。たとえば韓国やタイも、まもなく扶養率が上昇し始める見込みであるが、これら諸国の一人当たり所得は、中国よりすでにかなり高い。「未富先老」であるため、これにどう対処するかは、中国にとってより「挑戦性」(チャレンジング)のある課題である。

労働力不足は沿海部のみならず、内陸部でも生じ始めており、経済成長を支えてきた安い労働力は中国の優位性ではなくなりつつある(「劉易斯拐点」、すなわちルイス転換点の到来)。事態の打開には、まず労働供給面で、急激な生産労働力減少を緩和するため、一人っ子政策の見直しが俎上に載ってこよう。すでにほとんどの地方政府で夫婦とも一人っ子の場合には二人目を認めるとの緩和措置が採られていたが、最近、最大の人口を有する河南省も同緩和措置を決定したと伝えられている(11月26日付大洋網)。ただし、中国の合計特殊出生率の長期的推移を見ると、実は一人っ子政策導入以前の1970年代から既に急速に低下し始めており、一人っ子政策によって同比率が特に低下したわけではないことを考えれば、こうした政策の見直しによって事態が大きく変わるとは予想し難く、実は既に多くの中国人家庭の出産に対する考え方が、多くの子供を望まないという方向に変わってきているとの指摘もある。また、同政策の抜本的見直しがなかなか行われない背景として、事実かどうか判然とはしないが、違反して二人目を生んだ場合の罰金が地方政府の歳入源になっているので、見直しには地方政府の大きな抵抗を伴うというようなことも指摘されている。より重要で根本的な対応は、労働投入量の増加に依存する成長から脱却し、全要素生産性(TFP)を上げる努力をすることで、そのためには、まずは現行12次5ヵ年計画の着実な実施が不可欠ということになる。

「天経地義」、「天書」、腐敗・汚職は天の道理、経費透明化の試みも庶民には天からの書
「天経地義」は、紀元前500年頃の王位継承争いにからむ故事「王子之乱」に由来する成語だが、日常でもよく使われる。「経」は規範・原則、「義」は正理・道理、したがって、変えようのない絶対的なこと、当然のこと、当たり前のことを意味する。中国の百度百科によれば、「王位継承は礼、すなわち天経地義」の事であるという関係者の主張によって、争いが治まったとされる。「天書」は文字通り天からの書で、ちんぷんかんぷん(英語の‘Greek’のニュアンス)ということになる。

中国では、所得格差の拡大、格差の固定化の背後に、行政部門の無駄使いや役人の公費を使っての私的旅行があり、また公用車の私的目的での使用、公費での飲み食いなどが後を絶たず、これへの庶民の怒りや不満が高まっている。これを受け、公務出張旅費、公用車購入維持費、公務接待費を公開し始めており、人民日報等の専用のウェブサイト上で、行政部門毎に公表された、これら「三公経費」の実績、および予算額を見ることができる。ガス抜きかもしれないが、一歩前進であることにはちがいない。しかし、各部門から公開される数値は、なお「巧みな記載様式と簡単な注釈」で巧妙に発表されており、庶民から見ると「天からの書のようにちんぷんかんぷん(天書)」との評価である。中国では、所得格差や、国民経済上貯蓄率が高く消費が伸びない背景のひとつには、腐敗や汚職の問題があり、こうした経済問題は社会問題そのものでもある。経済問題解決のためには、社会構造的な問題にまで踏み込まなければならないが、腐敗や汚職と言っても、人々には「天経地義」という意識があるため、解決は容易でない。


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