根こそぎ改革が必要な大学制度

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2010年11月22日

  • 川村 雄介
冬を間近にするこの時期、夜も眠れない日々を送る若者たちが少なくない。就職先を確保できない大学生諸君だ。不景気が最大の原因ではあるが、その本質的理由を考えると、どうも今の大卒は役に立たないのではないか、という実社会の本音が見え隠れしてくる。他方で、この10年余りの間、大学は運営・カリキュラム改革やら社会での即戦力の人材育成やら就職支援の強化やらと、学生の卒業後を意識した活動に奔走している。このミスマッチをどう考えるべきなのだろうか。

ここでいくつかの事実をご紹介したい。OECD各国の平均大学進学率は54%、内アメリカは64%、イギリス・韓国が51%であるのに対して日本は41%、北欧は「授業料が安く学生支援も手厚い」グループに分類され、アメリカやイギリスは「授業料が高く学生支援も整備されているグループ」とされる。わが日本はなんと「授業料が高く学生支援も整備されていないグループ」だ。高等教育への公費負担率は北欧が押しなべて90%超、OECDの平均が73%の中で日本は32%に過ぎない。つまり日本の学生と保護者は高額で質の悪い教育環境に晒されていることになる。ちなみに日本の大学進学年齢(18歳)人口はピークの1992年が205万人、これが今年は120万人とピークから4割の激減である。

大学教師はといえば、毎年10種類にも上る入試の準備や就職支援業務、高校授業の復習から遠足の付き添い、果ては友達の作り方教室の主宰まで受け持たされるのが実情である。大多数の大学教師は海外の先端専門書1冊を熟読する時間もない。文部科学省は国際レベルの優れた研究成果を求めるが、これではないものねだりではないか。

私自身が最近まで10年間ほど専任の大学教師として大学社会に身をおいてきたので、現場の当惑と苦悶が痛いほど分かる。授業料未納で退学になりそうな学生の保護者と差しの面談を終えると入試会議、研究室に戻ると思いつめた就職相談の女子学生が待っていた。読みかけの学会誌は1ページも進まない。

大学改革は毎年のように試みられていが、もはや部分的な改革では対応できない。目先の弥縫策ではなくゼロベースの根本的な見直しが不可欠である。その視点は、第一に少子化の中で全国700以上もの大学が必要か、第二に人生90年時代の現在もなお人生50年時代の学制を墨守するのか、第三に研究と教育の両立はフィクションではないのか、第四は世界標準で見た大学のあり方をどう考えるか、そして第五になによりも教員の処遇をどうするか、だと思う。明日の日本は若者が担う。その若者の将来を支える責任は現役世代にある。全国民的レベルの議論が望まれる。

※本稿は11月18日掲載予定でしたが、掲載手続上の手違いにより、掲載が11月22日となりました事をお詫び申し上げます。

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