通貨戦争は心配ない

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2010年11月04日

  • 原田 泰
金融緩和競争が通貨安競争に、通貨安競争が貿易摩擦に、貿易摩擦が貿易戦争に、貿易戦争が本当の戦争になると心配する人もいる。10月22日に韓国で行われたG20(20か国・地域)財務省・中央銀行総裁会議でも、通貨安競争が議論の対象となった。しかし、通貨安競争を心配するには及ばない。

世界が金融緩和をしているときに、日本のように金融緩和しなければ当然に円高になる。為替レートとは、通貨と通貨の交換比率だから、アメリカのFRBとイギリス中央銀行が3倍、欧州中央銀行が2倍、韓国中央銀行が1.5倍にマネタリーベースを増やしているときに、日銀が10%しか増やさなければ、円が高くなるのは当然である。

では、日本も含めて、全世界でマネーを増やしたらどうなるだろうか。どの国の通貨も上がらないだけで、何も起きないだろうか。長いデフレが続いた日本では、マネタリーベースを2倍に増やしてもデフレから脱却できないかもしれない。しかし、そうでない国では、景気が過熱し、人手が不足し、物価が上り、バブルが起きるだろう。そういう国では、そうなる前に、金利を引き上げるのが自国の利益である。現に、オーストラリア、台湾、韓国、インド、中国では金利を引き上げた。これらの国は、自国の利益だから金融を引き締めたのである。

景気が過熱したら金利を引き上げるのは自国の利益である。結果として、自国通貨が上がっても、それは良いことである。自国通貨が上れば、輸入品が安くなってインフレを抑える。自国通貨が上るのは、外貨で計った自国賃金を上げることである。賃金は上ったほうが良いが、上げて失業を増やしたのでは意味がない。しかし、失業がないなら賃金が上ったほうが良いに決まっている。

1970年代の初期、日本で景気が過熱した時、日本は金融を引き締めるべきだったと言っても、誰も反論しないだろう。引締めが自国の利益だからとしても、他国に恩を着せて引き締めるのが外交だという人がいるかもしれない。しかし、そんなことばかりしていると、しまいには何が自国の利益かが分からなくなってしまう。金融政策は、自国のことだけ考えて行動すれば十分だ。

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