拡大する動産担保融資(ABL)

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2009年09月29日

  • 小坂 大輔
動産担保融資とは、企業の商品在庫や機械設備等の動産を担保にした融資のことで、アセット・ベースト・レンディング(ABL:Asset Based Lending)とも呼ばれている。中小企業やベンチャー企業は、不動産担保や人的保証に依存した一般的な銀行融資を受けるのに苦労しており、ABLはこれらに依存しない新たな資金調達の手法として注目されている。

金融庁の「平成20年度における地域密着型金融の取組み状況について」によると、2005年度の地銀・信金・信組によるABLの融資件数は27件、融資金額は47億円であった。2008年度には融資件数が1,387件、融資金額は585億円に達しており、地域金融機関によるABLは増加基調にある。

これまでにABLの担保となった動産は、醤油、おかき、牛、豚、日本酒、輸入ワイン、工作機械、商業用トラック、子供服、仏壇、ぬいぐるみ等と枚挙にいとまがない。これらの多様な動産について、金融機関が単独で資産価値の評価を行うことは困難であろう。また、ABLの実行後には、動産担保の管理や処分等も行わなければならない。ABLを本格的に機能させるためには、動産担保の評価、管理、処分の業務フローを確立する必要がある。

金融機関が自ら担うことができない業務は、外部に委託されることになろう。融資前の評価においては、日頃から資産価値の評価を行っているリース会社やリサイクルショップのほか、外資系を中心とした専門評価会社に活躍の機会があろう。融資後の管理においては、動産担保の数量や品質等を管理するシステムが必要とされ、システム会社やICチップメーカー等に事業機会が発生するかもしれない。あるいは、動産担保を区分して保管するためには、倉庫会社や商社等との提携が有効となる可能性がある。融資回収が困難となり動産担保を処分する際には、目利きノウハウをもつリサイクル会社や多様な買い手を集客することのできるオークション運営企業が、事業機会を得るかもしれない。このように考えてみると、ABLは企業の資金繰りを支援するだけでなく、周辺分野において多用な事業機会を提供する可能性も秘めているといえよう。

黎明期にある日本のABLには成長余地が十分に残されており、融資実績の拡大は当面続くであろう。ABLの取扱金融機関や周辺分野のサービス事業者が増加し、企業の資金調達手段が多様化することを期待したい。

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