歴史教育について

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2008年06月05日

  • 山中 真樹

先般、神奈川県の教育委員会が神奈川県独自の試みとして、県下のすべての県立高校で日本史を必修化するとの方針を打ち出した。平成20年度より日本史必修化に向けた具体的な取組みを開始し、新学習指導要領施行の時期に合わせて日本史の必修化を図るとのことである。

この話を聞いて、そもそも現在の高校では日本史は必修でないのかと驚かれる方も多いと思われるので、今の制度を簡単に説明しておく。現在の高等学校における地理歴史科においては、世界史が必修科目で、日本史と地理はどちらか一方を選択すればよいことになっている。つまり日本史は選択必修ということで、地理を選べば日本史を履修しなくても良いという制度になっている。

今回打ち出された方針によると、神奈川県における日本史必修化の取組みは、単に既存の日本史を必修化する、つまり地理より日本史を優先させるということでは必ずしもない。先ず神奈川県独自の科目、「神奈川の郷土史を学習する科目」「近現代史を総合的に学習する科目」を創設する。そのうえで、「世界史と日本史」を履修する(以下「パターン(1)」とする)か、「世界史と地理と独自科目(のいずれか)」を履修する(以下「パターン(2)」とする)か、この二つのパターンのどちらかを必修にするというものである。

この神奈川県の動きに対し、例の「愛国心教育」との絡みから異を唱える向きもあるようであるが、それは教育内容次第の話であり、いやしくも高等学校を卒業したものが相当程度の日本史の知識を持っていてしかるべきだとの主張にはあまり異論はなかろう。また、世界史の重要性は理解するものの世界史が必修科目で日本史はそうでないというのはどうみてもバランスが悪い。日本史は小学校、中学校でも習うが、世界史は習わないからということが背景にあるようであるが、それであれば寧ろ世界史の基礎的な部分は小中学校でも教えるべきだという方が自然であろう。

その意味で神奈川県の取組みは納得性があるが、現実問題としてはパターン(1)を選ぶものが大多数で、パターン(2)を選ぶものは殆んどいないのではないか。内容が定かでないので断定はできかねるが、二科目と三科目、どちらを選ぶかとなれば普通は二科目の方を選択するであろうし、県独自の科目では大学受験の対象にならないということもあろうから選択するものは限られよう。

こうしたことを考え合わせると、日本史と世界史を統合した科目を作ってそれを必修化するのが妥当なのではなかろうか。世界史の重要性というのも多くは日本と世界の対比であるとか、世界の動向が日本に与えた影響であるとかにあるはずである。中教審の議論などにおいてもそうした主張がなされているようであるが、学際問題の故であろうか採用されていない。高校生にとって何が本当に必要なのか、大局的な見地に立っての議論が深まることを期待したい。

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