いまや安全保障問題となった地球温暖化問題

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2007年10月04日

  • 河口 真理子
今年の夏は暑かった。気象庁によると今年の8月は平年より1.28℃高く、1989年の統計開始以来4番目に暑い月であったという。しかし、その直前の7月は少雨で平年より0.8℃低い、寒い月であった。海外をみても、7~8月は、欧州南東部で記録的な熱波がつづき山火事などの被害が広がった。

世界的に異常気象が続いているせいか、マスコミ報道など見ると、やっと地球温暖化問題、気候変動問題を社会共通の課題として考える論調が広がりつつある。すなわち、地球温暖化・気候変動問題は、環境派だけが関わる問題ではなく、すべての生活者が主体的に関わる問題として認識されつつあるのだ。なぜならば、気温の上昇は異常気象を多発させ、洪水や旱魃などの被害を増加させ、食糧不足や水不足問題を引き起こす。実際に天候不良のせいでインスタントラーメンからマヨネーズまで食料品の値上げが相次いでいる。また気候変動によって動植物の生存環境が変化し高緯度地域においてもマラリアなどの伝染病リスクも増える。現在地球の温度は産業革命以前より0.74度上昇し、この上昇幅が1.5℃を超えるとこれらの人間の生存を脅かすリスクは急増すると予測されている。

国際外交の舞台では、気候変動を安全保障問題ととらえる動きが広がりつつある。今年の4月に開催された国連安全保障理事会では、初めて気候変動が安全保障問題として議論された。また先月24日ニューヨークの国連本部で行われた「気候変動に関するハイレベル会合」でも、「気候変動は、すでに環境問題のみならず、エネルギー、開発、公衆衛生など、人間の生存に関わる問題であり、経済・社会部門のすべてのセクターがすでに気候変動の影響を受けている」と気候変動リスクを安全保障問題として捉える考え方が示された。その直後27、28日にブッシュ米国大統領が主催した「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要国会合」では、ポスト京都議定書の枠組みについて、米国や途上国も含めて国連の枠組みでの交渉に参加すること、長期目標としては日本が提案した「2050年までに温暖化ガスを半減する」を軸に検討する方針が表明され、12月にインドネシアのバリで予定されている国連気候変動枠組み条約の締結国会合(COP13)での協力でも合意した。

このように、気候変動を安全保障問題と捉えることで、地球規模での温暖化防止対策への参加が期待されるようになりつつある。しかし、気になるのはそのスピードである。現在地球上に放出される二酸化炭素の量は60~70億トンといわれる。これに対して地球が吸収する量は31億トンにすぎない。理論上、今以上の温暖化を食い止めるためには、直ちに二酸化炭素の排出量を世界中で半減させなければならないのである。更に現在までの二酸化炭素の発生にほとんど寄与していない途上国の人たちの成長余力を考えると、我々先進国の削減率は7~8割になるだろう。しかしながら、日本の現状をみると、京都議定書の、90年比わずか6%の削減目標に対して2005年の実績は7.9%増となっており、目標期間の2012年までの達成が危ぶまれている。長期的な枠組みについては慎重な議論が必要ではあるが、我々に残されている時間は僅かである。気候変動対策は我々の生存基盤を防衛する安全保障問題であるという認識に基づいた大胆で速やかな対応が求められている。

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