アメリカにおけるビジネスカジュアルの功罪

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2006年08月25日

  • 鈴木 誠

わが国でも「クールビズ」の効果のせいか、次第にノーネクタイ・ノージャケットのビジネスマンを多く見るようになった。朝から気が滅入るほどの蒸し暑さのわが国において、梅雨時や夏季にスーツ・ネクタイの着用は過酷でもあるから、労働意欲を削ぎ、非効率ともいうべき伝統を見直すという意識改革に多くのビジネスマンは賛同したものと見られる。

さて、自由の国、米国でのビジネスカジュアルとはどのようなものであろうか。先日、ウォールストリートジャーナル(8月5-6日付け週末号)に興味深い特集が組まれていたので少し紹介したい。まず、脱スーツという点において、マーサーヒューマンリソースコンサルティングによれば「従業員2000人以上の企業の84%以上はビジネスカジュアルのドレスコードを規定している」ということであるから、脱スーツがすでに定着しているようだ。たとえば、米国のある会社では、「ビジネスドレスポリシー(職場服装規定)」が定められており、そこには「夏場においてビジネスカジュアルを勧めていますが、服装については専門性を維持し、職場において適切であることが求められます。」と述べられている。さらに、具体的な不適切な例として「Tシャツ、ジーンズ、半ズボン、サン・ドレス、ミニスカート、スニーカー、ビーチサンダル等」が挙げられている。別の会社では「膝丈のズボンやカプリパンツ(七分丈のパンツ)は良いが、ベア・ミドルフ(所謂、へそ出しルック)はだめ」といったところもある。

これらの規定を眺める限り、わが国のクールビズが想定するビジネスカジュアルよりも一般的にかなりドレスダウンしているようだ。しかも、各従業員による規定の解釈の相違から、次第にビジネスカジュアルからカジュアルの方向に拡大解釈されていると考えられる。わが国から見れば一部には「カジュアル過ぎでは」という域に達している装いもあるが、こうした潮流が逆戻りすることなく、推し進められる要因は単純に夏季の作業効率性だけにあるわけではないことが考えられる。

まず、ビジネスカジュアルは従業員への福利厚生の一部としての性格があることである。従業員が勤務にしかほとんど用途のないスーツに高い支出をすることは、経済的な合理性から見て好ましいとは言えない。前述のWSJ紙によれば今年6月時点における男性・女性向けスーツの売り上げは55億ドル減少していると述べられており、ビジネスカジュアル化が家計を助けていることは明らかである。

さらに、職住接近、たとえば、オフィスの数ブロック先に住居があることが、「通勤」や「出社」といった概念を希薄なものとしつつあることである。職住接近の影響で家でも会社でも共用できる装いが広く求められる傾向が見られる。

ビジネスカジュアルが広く普及したからといって、ここ米国でビジネスに支障があったという話を聞いたことがない。一方でスーツを扱う高級衣料品店が少なからず影響を受けているとも考えられるが、逆にスーツ着用はエグゼクティブの証として一部では再び注目されているようである。このように、アメリカにおけるビジネスカジュアルは従業員に恩恵を施しただけでなく、スーツの価値の再認識につながったといえるだろう。

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