金利を上げたら金利が下がった

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2006年08月01日

  • 原田 泰
日本銀行は、7月14日にゼロ金利政策を解除し、コールレートを0.25%に引上げた。当然、すべての金利が上がると思われたが、それまで2%に近づいていた長期金利は低下して1.9%を割った。

短期金利を上げたのに、なぜ長期金利が下がったのだろうか。長期金利とは、長期期待インフレ率と長期実質利子率を足したものである。すなわち

長期金利=長期期待インフレ率+長期実質利子率

という関係がある。

この式を見れば、金利を上げて長期のインフレ期待を低下させれば長期金利が低下するのは当然だと分かる。金利の上げが景気を冷やすのであれば、なおさら長期金利は低下するだろう。

ここで今年の3月ころまで、経済財政諮問会議で繰り広げられた論争を思い出して欲しい。長期金利は名目GDPの上昇率よりも高いのか、低いのかという論争だ。論争の決着は着かなかったが、長期金利は名目GDPの上昇率とほぼ等しい(ほぼ等しいが、長期金利の方がやや高いという派とやや低いという派がある)ということでは合意が得られていると思う。すなわち

名目GDPの上昇率≒長期金利

という関係がある。

すると、長期金利が低下したとは、名目GDPの成長率も低下するだろうと市場が予測していることになる。同じことは、2000年8月のゼロ金利政策の解除時にも起こっている。短期金利を引上げたのに、1.9%弱だった長期金利は墜落して1%を割るまでに低下した。2001年度の名目GDP成長率はマイナス2.1%となった。

日本がデフレから脱却し、名目GDPも上昇すると考えているエコノミストが多いようだが、市場はそう楽観的には見ていない。では、2006年7月は、2000年8月の再現になるのだろうか。そうはならないだろう。2000年にはゼロ金利解除を引き金に長期金利が急激に落下したが、2006年7月にはわずかに下がっただけだからだ。市場はそれほど楽観的に見てはいないが、2000年の時ほど悲観的でもないということだろう。

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