韓国の労働争議は経済、政治を巻き込んだ大問題

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2005年12月16日

  • 黒坂 慶樹
韓国では依然、労働組合運動が活発である。12月8日から始まった大韓航空のパイロット労働組合のストライキは、11日に政府が緊急調整権を発動し、4日間で収束した。ストライキの影響で、旅客機の72%、貨物機の90%が欠航した。今年に入ってパイロット労働組合のストライキは7月から8月にかけて行われたアシアナ航空に次いで2回目である。現代自動車も8月から9月にかけてストライキを行ったが、物流部門のストライキは製造業のストライキよりも深刻である。物流部門は韓国経済を支える輸出入に関連しているため、韓国経済に悪影響を及ぼしかねない。アジアにおいては、日本に次ぐ先進国であり、OECD加盟国でもある韓国において、ストライキが頻発することは大変憂慮すべき問題である。

一部企業の労働争議は経済全体に影響を及ぼしかねない。現代自動車のストライキは、前年同月比2桁増が続いていた自動車の輸出を、前年を下回る水準にまで落ち込ませた。しかし今回のような航空会社のストライキはさらに深刻である。自動車とともに韓国の輸出を支える電機関連に大きな影響を及ぼす。輸出の主力である半導体や携帯電話の多くは、航空便を使って輸出しており、航空貨物が輸出全体額に占める割合は3割を超える。韓国経済のみにとどまらず、半導体など電子部材の円滑な供給ができなくなることは世界的に混乱をきたす可能性もある。

大韓航空のストライキでは政府は緊急調整権を早期に発動し沈静化に努めた。緊急調整権は、争議行動が経済活動や日常生活に甚大な影響を与える可能性がある場合のみ、政府が発動する。発動されると、争議行動は禁止され交渉のテーブルに強制的に着かされる。近年、政府が労働争議に介入するケースが増加している。過去4度しか行われていない緊急調整権発動のうち、盧武鉉政権になってから2度(前回は今年8月のアシアナ航空)を数える。政府は場当たり的な緊急調整権の発動ではなく、もっと根本的に労使問題を見直すところにきている。韓国に2つ存在する労働組合の中央組織と膝を交え、韓国全体の国益を考えた前向きな話し合いを持つべきである。残念ながら今のところそのような動きはなく、来年もストライキは行われるだろう。2006年の経済成長率は前年比+4.7%を見込んでいるが、一部の企業の労働争議によって下方修正という悪夢だけは避けたい。

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