活気付く中国のM&A、2つの潮流

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2005年01月12日

  • 櫛田 雅弘
中国の外貨準備高は、2002年末が2,864億米ドル、03年末が4,033億米ドル、04年末には6,000億米ドル近い水準にまで積み上がっていると推定される。昨年初、一旦赤字に転じた貿易収支が再び黒字幅が拡大する一方、中国景気減速懸念何のその、海外企業の中国への直接投資も一向に衰える気配がない。人民元切り上げへの憶測からホットマネー(投機資金)の流入も続いていると思われる。中国政府は、為替政策を真剣に見直してはいるものの、今後慎重且つ段階的な対応策を打ち出してくると考えられる一方、資本の自由化には具体的な動きがみられる。保険会社が保有する外貨を海外資産(除く株式)に投資することが認められたのは、その一例で、つい最近、平安保険がその認可を受けた。

中国企業の海外投資も急増する傾向にあり、上場企業による04年の海外投資は、前年比217%増の70億人民元に達したとも伝えられている。増加が続く資源・エネルギー資源の確保のため、石油大手が海外の油田・ガス田を買収する動きが活発化、エン州石炭は豪サウスランド炭鉱を買収した、中国アルミはブラジルのアルミナ鉱山の権益に食指を伸ばしていることなどが例としてあげられる。また、レノボがIBMのPC事業を買収、TCLが仏トムソンのTV事業を買収、仏アルカテルの携帯電話事業で合弁設立、上海汽車が韓国双龍自動車に出資するなど、後発の技術集約産業では、海外企業を買収、資本提携して、技術ノウハウの取得と国外プレゼンスの向上を図る動きも盛んになってきている。

中国国内では、通信や電力といった公益セクターで、上場会社が親会社から資産譲渡を受けるケースが多く、製造業では、鉄鋼の宝山鋼鉄、鞍鋼ニュースチールも親会社の資産を譲り受け、また、つい最近では、石油化学のサイノペックが関連会社の北京燕化を完全子会社化することを発表した。これらは、直接・間接金融を通じて、業界再編を進め、強者をより強者にする動きと判断されよう。

中国企業による海外投資と国内での業界再編の動きは、潤沢な流動性を背景に今後も活発化するものと思われる。こうした上場企業のM&A活動に対する市場の反応は興味深い。国有企業の親と上場企業の関係は、コーポレートガバナンスの観点からは不透明極まりないが、概して、親から子への資産譲渡は、EPSを希薄化させない、市場が納得する価格で行なわれるケースが多く、市場が好感する場合が多い。一方、海外企業の買収、資本提携は、相手方の手放す事業の収益性が低いケースが多く、EPSの希薄化を招き、発表が株価の下落を招くケースが多いように思う。ある意味でベールに包まれた親子取引をポジティブに、夢のある海外取引にネガティブに反応するマーケットは、現実的、近視眼的すぎるのではと思うのは筆者だけであろうか。

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