南アフリカの総選挙とズマ大統領二期目の課題

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2014年06月09日

1994年のアパルトヘイト撤廃後、全人種が参加して実施された初の選挙から4月で20周年を迎えた南アフリカでは、5月7日に総選挙が実施された。

南アフリカでは、アパルトヘイトに抵抗し、故ネルソン・マンデラ元大統領が率いたアフリカ民族会議(ANC)が1994年から与党として政権を担当している。アパルトヘイトを経験した世代にとっては解放闘争の記憶と結びつき、ANCはいまだに高い支持率を維持している。そのため、今回の総選挙でも、選挙前からANCが勝利することは確実とみられていた。一方で、今回はアパルトヘイト解放後に生まれた若い世代が初めて選挙に参加した。この世代では、依然として解決しない経済格差や高い失業率に対する不満に加え、ズマ大統領の自宅改修に多額の公金が流用されたとする疑惑などから、ANCへの支持率は低下しており、野党勢力が支持を取り込めるかが注目されていた。

総選挙の実施にあたって大きな混乱は起こらなかった。9日に確定した選挙結果(※1)では、ANCは62.2%を獲得し、400議席のうち249議席を獲得したが、前回より得票率は3.8%低下し、議席を15減らす結果となった。白人からの支持が多い最大野党の民主同盟(DA)は西ケープ州などを中心に6%近く得票率を伸ばし、改選前より22議席増の89議席と躍進した。また、注目されているのが、経済的解放の闘士(EFF)の議席獲得である。EFFは13年にANCの青年同盟が分離・結党した政党で今回が初めての選挙となったが、6.4%の得票率で25議席を獲得し、第3党となった。社会主義色の強い左派政党であり、EFFの躍進は、特に若い世代でのANC離れと政策に対する不満の表れだとみられている。

選挙でのANCの勝利を受け、5月21日の国民議会において、ズマ大統領が再選され、二期目がスタートした。しかし、ズマ大統領自身への支持率低下に加え、EFFの躍進に見られるようなANCへの不満に対し、国民の信頼を回復させることができるかなど課題は多い。南アフリカは2013年にナイジェリアにアフリカ最大のGDPの座を譲っており、最近公表された2014年1-3月期のGDP成長率は前期比年率▲0.6%とマイナスに転じるなど、このところ経済は停滞している。また、雇用の回復は遅れており、失業率は25%と高止まりしている他、1月から続くプラチナ鉱山のストによる経済損失や社会不安なども広がっており、経済的に解決すべき課題は山積している。報道などによると、ズマ大統領は雇用の創出やインフラプロジェクトの拡大など、「国家発展計画」を実行していく姿勢を示しており、特に経済成長と雇用回復に向けた迅速な政策の実行が政権安定へのポイントとなろう。アパルトヘイト撤廃から20年、昨年にはマンデラを失った南アフリカが、投資における最後のフロンティアとして注目度を高めるアフリカ地域において、魅力を失わず、地域大国としての存在感を維持できるかがズマ大統領の二期目には試されていると言えよう。

(※1)出所:独立選挙委員会(The Independent Electoral Commission)

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