基礎自治体と道州制

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2013年12月12日

  • 岡野 武志

1993年に衆参両院で行われた「地方分権の推進に関する決議(※1)」から20年余りが過ぎた。国と地方の役割を見直し、二十一世紀にふさわしい地方自治を確立することを目指したこの決議を一つの起点として、地方分権改革に向けた法制度の整備や市町村の再編などが進められてきた。地方分権一括法(1999年)、いわゆる合併三法(2004年)、地方分権改革推進法(2006年)などが成立し、3,200を超えていた基礎自治体(市町村)の数も、1,700余りにまで減少した。

地方分権改革の進展に伴って、基礎自治体が担う役割は大きくなり、市町村合併によって、従前より人口が分散した広い地域をカバーする基礎自治体も多くなっている(※2)。ところが、基礎自治体の職員数は、この間に大きく減少しているという(※3)。また、市町村合併が進んだ2010年でも、地方自治法が想定する「市」の規模(人口5万人)を下回る基礎自治体数は、全体の7割近くを占めており、国や都道府県の機能を一律に移行することが難しい場合も考えられよう。

第28次地方制度調査会から提出された「道州制のあり方に関する答申(※4)」(2006年)は、「国と基礎自治体の間に位置する広域自治体のあり方を見直すことによって、国と地方の双方の政府を再構築」することを問いかけた。この答申は、補完性の原理と近接性の原理に基づいて、都道府県の位置づけを見直し、広域自治体として「道」または「州」を置く構想を示している。広域自治体のあり方については、その後も各方面で検討が続けられており、道州制に関する法案も国会に提出されている。

しかし、基礎自治体の中には、横浜市のように広域自治体にも匹敵する人口規模を有する自治体がある一方、近隣との合併や協力などが地理的に難しい小規模な自治体もみられる。基礎自治体が広域自治体に求める補完機能は多様であり、広域自治体の見直しは、基礎自治体のさらなる見直しと一体に、きめ細かく行われることが望ましいであろう。他方、広域自治体のあり方の見直しは、地域社会の再生と国土の強靭化を図る絶好の機会でもある。国土を広域に区割りする視点だけでなく、国土全体を有効に活用する構想を描きながら、改革を進める視点が必要であろう。

少子高齢化や人口流出、産業の衰退や税収の減少、インフラ老朽化など、山積する課題を克服していくためには、住民や基礎自治体の側にも、コンパクト化、スマート化、ネットワーク化などを含め、さまざまな工夫や努力が求められよう。また、これまで国や自治体が担ってきたサービスについても、住民や民間企業を含めて、役割分担やコスト負担の仕組みなどを見直す必要があるかもしれない。住民と住民に近い基礎自治体が主役となり、自主的で自律的な意思決定と行動による地方自治が発展することを期待したい。

(※1)「地方分権の推進に関する決議」参議院
(※2)
市町村合併資料集(「平成の合併」について)」総務省
(※3)
地方公務員数の状況」総務省
(※4)
第28次地方制度調査会の議事要旨(道州制のあり方に関する答申(平成 18年2月28日))」総務省

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