野菜やハーブをふんだんに使ったヘルシーな料理として、日本でもベトナム料理の人気は高い。ヘルシーな料理と健康的な生活習慣、体にぴったり仕立てたアオザイを着こなすベトナム人女性などによって、ベトナム人は概してスリムな国民だととらえられてきた。しかし、このイメージはすでに過去のものであるかもしれない。
ベトナムにおいては、1986年のドイモイ(刷新)政策導入を契機とした急速な経済発展と所得の伸びに伴って生活環境が改善され、栄養状態も向上してきたが、これに伴って肥満の増加が社会問題となっている。世界保健機関(WHO)の“Global Body Mass Index”によれば、成人(18歳以上)の肥満率(※1)は日本(2001年)の3.1%に対してベトナム(2000年)は0.5%であり、世界でもトップクラスのスリムな国である。しかし、最近ではベトナムの肥満率は3.5%に上昇、日本の3.5%と同水準に達しており、特に男性は4.8%で日本の3.6%を上回っている(WHO、いずれも2014年)。
肥満は生活習慣病との関係性が深く、中でも糖尿病との間には密接な関係があるとされる。ベトナムにおいても糖尿病有病率の急速な上昇が指摘されており、2014年調査では5.7%と、世界平均の8.3%に比べれば低いものの、すでに日本(5.1%)を上回っている(※2)。肥満の増加要因は、所得向上による飲食物摂取量の増加、油や脂肪の摂取量増加など食習慣の変化、ファストフードの広がりに加え、食生活に対する知識不足も一因であり(※3)、スナック菓子やファストフードを安易に与えることによる子どもの肥満はその表れといえる。
糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんど見られないことから、定期的な検査による早期発見及び早期診断・治療が重要である。ベトナムでは、実施率は高くないようだが、雇用労働者には年1回健康診断を受診させることが雇用主に義務付けられている。一方、農業従事者、自営業、専業主婦には検査を義務付ける制度すら存在しないため、定期的に健診を受ける人は極めて少ないと考えられる。従って、多くの場合は自覚症状が現れてようやく病院を受診することとなる。医療サービスの大部分は行政単位で設置された公立病院によって提供されているが、下位の病院、特に地方の病院は設備、機材、人材ともに不足し、十分な医療を提供できないことが多い。上位の病院は患者集中によって常に混雑し、長い待ち時間を強いられる。結果として治療が遅きに失するケースも多いであろうことは想像に難くない。
ベトナムにおける糖尿病の急増は、必ずしも国民がぜいたくを覚えたことの副作用ではなく、経済発展、生活環境や生活習慣の変化のスピードに、健康に対する知識と保健医療インフラの整備のスピードが追い付かないことの象徴ともいえる。肥満や糖尿病の要因は多様であるが、ベトナム政府としては、雇用労働者の健診受診義務を徹底するとともに、それ以外、特に低所得者層の糖尿病を早期診断・治療する対策を打ち出していく必要があるだろう。肥満や糖尿病には多くの要因が関係しており、即座に解決することは困難であろうが、まずは、各地の公立病院、保健センター等の医療従事者の能力向上、肥満や糖尿病に関する国民の知識向上、公的医療保険の利用を含めた少ない個人負担での検査を可能とする機材の整備としくみの構築が求められるのではないか。
(※1)WHOはBMI(体重/(身長の2乗))が25以上をoverweight(過体重)、30以上をobesity(肥満)と定義し、BMIが30以上である人の比率(肥満率)、25である人の比率(過体重率)の国別データを示している。なお、日本においてはBMI25以上が「肥満」と判定される。
(※2)“IDF Diabetes Atlas, Sixth edition, 2014 Update”, IDF(International Diabetes Federation)
(※3)これらに加え、日本人やベトナム人は欧米系に比べ軽度の肥満でも糖尿病を発症しやすい遺伝的な特徴を持っている可能性も考えられる。
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