サマリー
- 実質GDP成長率見通し:22年度+2.9%、23年度+1.9%:本予測のメインシナリオでは、新型コロナウイルスワクチン追加接種の効果や経口治療薬の普及などもあって経済活動の正常化が進展するとの想定の下、実質GDP成長率は22年度で+2.9%、23年度で+1.9%と見込む。ウクライナ危機や感染状況、米国の金融政策、中国経済の停滞などにより景気が下振れするリスクは大きい。だが、22年度は国内のサービス消費やインバウンド消費の回復余地、自動車の増産余地の大きさなどから、資源高の中でも景気回復が継続する見通しである。足元で急速に進む円安は、ウクライナ危機や感染拡大によって「悪い円安」となっており、経済活動への悪影響には注意が必要だ。
- 論点①:インフレの展望と日本経済の中長期的課題:オイルショック期などと比較すると、現在は単位労働コストの目立った上昇やホームメイドインフレは見られず、米国のようにインフレが高進するリスクは低い。22年度のコアCPI上昇率は前年比+1.9%と見込んでいる。資源価格が横ばいで推移すると、交易条件の悪化による海外への所得流出額は22年度に8.8兆円程度拡大し、家計の直接的な負担増は3.1兆円程度になるとみられる。経済正常化の進展や人手不足の深刻化などから賃金上昇が続くことで、資源高の影響が概ね落ち着く23年度でも+1%程度のインフレが継続するだろう。中長期的には、金融政策が正常化して長期金利が急騰するリスクに警戒が必要だ。
- 論点②:利上げで米国は景気後退に陥るか:米国では、利上げによって金利に敏感な住宅投資の調整が見込まれる。ただし、家計のバランスシートにはリーマン・ショック前のような過度なレバレッジは見られず、住宅市場の調整が景気後退を引き起こす可能性は低い。他方、家計による株式保有は増加しており、株価下落による逆資産効果に注意が必要だ。インフレ率が高い局面では、リスクプレミアムの拡大によって長期金利が上昇しやすく、金利上昇は更なる株価下落を引き起こす可能性がある。メインシナリオでは、米国経済は景気後退を回避すると見込むが、バランスシート縮小後の長期金利が5%台後半を超えるかどうかが、米国が景気後退に陥る1つの目安となろう。
- 論点③:サプライチェーンの混乱による経済・産業への影響:ロシアはグローバルサプライチェーンの上流に位置づけられ、欧州を中心に素材・中間財を供給している。ロシアとの貿易が停止した場合の影響を試算すると、日本では生産額対比で▲1.0%程度、ドイツでは同▲1.4%程度である一方、米国では同▲0.2%程度にとどまる。業種別に見れば、日本では輸送機械や鉄鋼・非鉄金属などを中心に悪影響が及ぶだろう。また、もし仮に中国と世界の貿易が断絶した場合、日本の実質GDPは年間40~70兆円程度押し下げられる可能性がある。
- 日銀の政策:コアCPIは資源高及び円安による押し上げもあって22年度に前年比+1.9%に高まろう。ただし、こうした影響が一部剥落する23年度には同+1.2%を見込む。経済活動の正常化は進むものの、予測期間を通じてインフレ目標の安定的な達成は見通せない。このため、日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、現在の金融政策の枠組みを維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資は22年度▲3.0%、23年度+2.2%と想定。
(2)為替レートは22年度131.8円/㌦、23年度132.6円/㌦とした。
(3)原油価格(WTI)は22年度117.1ドル/バレル、23年度119.4ドル/バレルとした。
(4)米国実質GDP成長率(暦年)は22年+2.6%、23年+2.0%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
株主提案制度にコスト/ベネフィット分析を
世界で最もアクティビスト・ファンドにとって使いやすい日本の株主提案制度
2024年05月09日
-
医療等情報の二次利用は誰のためか
創薬・医療機器開発のみならず、医療の質の向上や効率化にも活かす
2024年05月09日
-
東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題
市場活性化の鍵を握るボランタリー・クレジットの活用
2024年05月09日
-
ガバメントクラウドは誰に任せるべきか
国産クラウドの初採用に寄せる期待と懸念
2024年05月09日
-
新興国通貨安は脱炭素に向けた投資の障害に
~通貨バスケットに連動する債券(WPU連動債)で為替リスクを低減~
2024年05月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日