サマリー
◆米トランプ大統領が2,500億ドル相当の品目に対し、対中関税を25%まで引き上げることを表明した。米中冷戦が激化に向かう可能性が再び高まっている。そこで本稿では①背景にある政治力学を解析し、②世界経済への影響を網羅的に分析するとともに、③日本経済への含意を考察する。
◆【決裂の可能性が高まる米中通商協議】中国の覇権への挑戦を阻止することを目的とした米国の妨害戦略は長期的に続くだろう。その主たる手段は軍事政策だが、軍事的優位性を維持するために国力・経済力格差の維持が必須となる。ここで減税と関税が大きな意味を持つ以上、今後も長期的に通商摩擦の激化が継続する公算が大きい。
◆冷戦激化の長期的潮流の中で、2018年12月以降、一時的な「停戦」が行われてきた。背景には米中両国ともに、重要な選挙が控えていない期間に景気回復の「時間を買う」誘因が働いたことがある。しかし米国は金融市場の回復に加え、財政金融政策の援軍が近づいたことから、経済的な余力を取り戻している。これにより「停戦」を前提としてタカをくくっていた中国への「先制攻撃」を再開する意欲を取り戻したと推察される。
◆【世界経済に与える影響の網羅的分析】米国の対中関税は、2,353億ドルの輸入品目に対して賦課される。追加関税総額は現行で305億ドルだが、25%へ引き上げられれば588億ドルとなる。なお、今回問題となる約2,000億ドル相当の輸入品目に対する追加関税については、記憶装置の部品などの電子機器の部品、携帯電話を含む電話機のウェイトが大きい。大和総研のマクロモデルを用いた試算によれば、GDPの下押し効果は中国▲0.22%、米国▲0.28%、日本▲0.02%となる。
◆【日本経済への含意】日本にとって最も懸念すべき問題は「二次的効果」だ。すなわち、中国から米国に輸出されている電子機器を生産するために必要となる部材や資本財の対中輸出が顕著に減少する効果である。他方、米中冷戦が深刻化するほどに同盟関係が重要となり、米国による対日関税の引き上げリスクが後退することや、米中が関税を相互に賦課することで日本における代替生産が増加する「代替効果」は、日本経済にとって言わば「漁夫の利」となりうる点にも留意しておきたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
株主提案制度にコスト/ベネフィット分析を
世界で最もアクティビスト・ファンドにとって使いやすい日本の株主提案制度
2024年05月09日
-
医療等情報の二次利用は誰のためか
創薬・医療機器開発のみならず、医療の質の向上や効率化にも活かす
2024年05月09日
-
東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題
市場活性化の鍵を握るボランタリー・クレジットの活用
2024年05月09日
-
ガバメントクラウドは誰に任せるべきか
国産クラウドの初採用に寄せる期待と懸念
2024年05月09日
-
新興国通貨安は脱炭素に向けた投資の障害に
~通貨バスケットに連動する債券(WPU連動債)で為替リスクを低減~
2024年05月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日