サマリー
◆欧州の銀行の株価が冴えず、とりわけイタリアの銀行株が年初来で大幅安となっている。原因はイタリアの銀行部門の不良債権処理が進んでいないことにある。EBA(欧州銀行監督機構)のデータによると、2016年3月末のイタリアの不良債権比率(NPL Ratio)は16.6%で、英国の2.3%、ドイツの3.1%、フランスの4.0%はもとより、スペインの6.3%と比較しても高水準である。
◆イタリアの不良債権比率が高いのは、もともと銀行数が多く競争が激しいことを背景に甘い審査での貸出が多い、収益性が低いという問題があったところに、景気停滞の長期化が加わったことが原因と考えられる。景気停滞は企業業績や家計所得の悪化を招き、銀行への返済を滞らせて、不良債権を増加させる要因である。一方、不良債権の増大が銀行の融資余力を低下させ、投資の抑制要因となって景気停滞を長期化させる作用もある。すなわち、不良債権処理が遅れるほど景気低迷も長期化する悪循環のリスクがあるが、イタリアはこの悪循環から抜け出せていないと見受けられる。
◆焦点となっているイタリア3位のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(MPS)の不良債権処理に関して、EUルールとイタリアの政治日程が障壁となっている。イタリア政府は公的資本の注入を検討してきたが、EUルールで公的支援に先立って当該銀行の株主や債券保有者の負担共有(ベイルイン)が必要とされていることが問題となり、実現していない。イタリアではこの秋に憲法改正の是非を問う国民投票が予定されているが、レンツィ首相は否決された場合は退陣する方針を表明してしまっている。憲法改正の中身ではなく、現政権に対する不満表明の場として国民投票が機能してしまう懸念が否定できない中で、ベイルインは政府にとってリスクの高い選択肢なのである。
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