サマリー
◆2015年に実施された欧州各国の議会選挙では政権交代が目立った。その原因の一つは、金融危機とユーロ圏債務危機以降、各国が採用せざるを得なかった緊縮財政政策に対する不満の蓄積である。1月のギリシャ議会選挙では緊縮財政の撤回を主張する急進左派連合(SYRIZA)が初めて政権につき、10月のポルトガル議会選挙では中道右派政権に代わって左派の少数与党政権が誕生した。もっとも、欧州のすべての選挙で「左傾化」が生じたわけではない。
◆5月の英国議会選挙では、中道右派の保守党が過半数の議席を獲得して続投を決めた。一方、10月のポーランド議会選挙では、右派の「法と正義」が中道右派連合を破って政権を奪取した。また、12月に行われたフランスの地域圏議会選挙の第1回投票では、極右の国民戦線(FN)が全国集計した得票率で第1党に躍進して注目を浴びた。このような「右傾化」の背景には、移民や難民の流入急増に直面する中で、その排斥を主張する政治勢力が支持者を増やしている現実がある。
◆左傾化と右傾化ではベクトルは正反対だが、既成政党の政策に対する不満や不信感が蓄積する中で、国民が選挙をその不満を表明する機会と捉え、何らかの変化を求めて投票したと見受けられる。ただし、国民自身にもその「変化」の行きつく先が明確になっているわけではなく、それが端的に表れたのが12月20日のスペイン議会選挙と考えられる。与党の国民党(PP)が第1党の座は維持したものの、大きく議席数を減らし、他方で、最大野党の社会労働党(PSOE)も議席数を伸ばすことはできなかった。代わってポデモス、シウダダノスの2つの新興勢力が議席を獲得したが、それぞれ第3党、第4党にとどまった。欧州の政治情勢は2大政党制のような従来の形が崩れつつある一方、次の新しい形はまだ明確ではない。とはいえ、政策転換が左右に極端に振れる動きに対しては、それをとどめようとする力も働くように見受けられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
グローバル特集レポート 選挙と政治③
トルコ:政治の先行き不透明感は後退も内外に課題は山積
2015年12月25日
-
グローバル特集レポート 選挙と政治①
南米、欧州、ミャンマーなどに見る「ナショナリズム」と「民主化」
2015年12月25日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
株主提案制度にコスト/ベネフィット分析を
世界で最もアクティビスト・ファンドにとって使いやすい日本の株主提案制度
2024年05月09日
-
医療等情報の二次利用は誰のためか
創薬・医療機器開発のみならず、医療の質の向上や効率化にも活かす
2024年05月09日
-
東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題
市場活性化の鍵を握るボランタリー・クレジットの活用
2024年05月09日
-
ガバメントクラウドは誰に任せるべきか
国産クラウドの初採用に寄せる期待と懸念
2024年05月09日
-
新興国通貨安は脱炭素に向けた投資の障害に
~通貨バスケットに連動する債券(WPU連動債)で為替リスクを低減~
2024年05月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日