サマリー
◆インドネシアの実質GDP成長率は3四半期連続で鈍化した。今後は、原油価格の急落がインフレ率の低下や燃料補助金の大幅削減等を通じて経済を底上げすると期待される。特に燃料補助金の削減は財政に余力を生じさせた。実際、今年1月に提出された2015年度の補正予算案では、インフラ整備等への投資を元の予算案から大幅に増額する予定である。しかし、依然として経済の下押し圧力は存在する。輸出に関しては、主要輸出品目である石炭等の商品価格が原油価格急落の影響を受けて減速基調が続く可能性がある。さらにFRB(連邦準備制度理事会)による利上げ実施が通貨ルピアの急落リスクをもたらすため、中銀は通貨防衛に向けて、しばらく高金利政策を続けざるを得ないであろう。
◆2014年のタイの成長率は政治不安から消費、投資を中心に落ち込んだ。ようやく緩慢であるが内需を中心に回復の兆しが見え始めたのは、暫定政権が発足した年後半からである。2015年は徐々に回復感が高まる展開となるだろう。リスクは予算執行のスピードが遅れる点にあり、その場合中銀は金融政策をさらに緩和するだろう。米国の利上げでバーツ安が進む可能性が高く、その場合は難しい舵取りを迫られよう。新憲法の公布、民政移管と政治的に議論を呼ぶイベントが続くため引き続き政治動向には注視が必要。
◆マレーシアの実質GDP成長率は2014年7-9月期に減速した。今後も、短期的には成長鈍化が避けられないと見込まれる。原油価格の大幅下落は資源セクターを中心に輸出・投資を押し下げる上に、財政の悪化をもたらす。さらに、個人消費もGST導入による実質所得の押し下げを受けて減速する可能性が高い。一方で、原油価格の下落は燃料補助金の削減を通じて財政をある程度改善する効果や(マレーシアの)輸出相手国の購買力を高める効果がある。また、個人消費に関しても低インフレ率が見込まれる中で、低所得者向け一時給付金であるBR1Mの支給金額の増加や個人所得税の減税が下支え役を果たすと期待される。そのため、4%の成長率を下回るような大幅減速は回避される見通しである。
◆フィリピンは2014年も6.1%の高成長を遂げた。前年からの減速は、主に政府支出と公共投資の減速によるものだが、民間消費、民間投資、輸出は好調であった。2016年に大統領選挙を迎えるという状況下で、2015年は政府支出、公共投資も回復するだろう。物価は食品と原油価格の落ち着きで、インフレ目標内で安定的に推移する見通しである。米国の利上げが実施されても、フィリピンから資本が流出しペソ安が高まる可能性は低いことから、政策金利は当面据え置かれるとみられる。
◆2014年のベトナムの経済成長率は政府目標を上回る6.0%であった。2015年以降も、金融緩和や通貨ドンの切り下げといった政策効果を受け、比較的良好な経済状況が続く見通しである。しかし、不良債権問題が悪化するリスクや世界シェアが急落したサムスン電子製のスマートフォンがさらなる販売不振に陥るリスクが存在する点には留意する必要がある。
◆以上より、2015年のASEAN5ヵ国の経済は、2014年の前年比+4.5%から同+5.5%へと加速し、2016年も同+5.5%で推移すると予想する。
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