サマリー
◆「滬港通」と呼ばれる、中国上海・香港双方向の株式投資が2014年11月17日にスタートすることが正式に発表された。香港から上海市場への1日当たりの投資上限はネットの買いで130億元、2014年10月の1日当たり上海A株売買金額は1,741億元、同様に中国から香港市場への1日当たり投資上限はネットの買いで105億元、2014年10月の1日当たり香港市場株式売買代金が475億香港ドル(376億元)だったことからすると、実施後の短期的なインパクトは決して小さくない。
◆中長期的に鍵を握るのは、地域的にも商品的にも多様な投資選択肢を有する香港の投資家にとって、中国本土市場が魅力的か否かである。市場としての魅力向上には、香港から学べるところを学べばよい。香港市場の優位性は、①香港市場の投資主体は域内外の機関投資家・個人投資家がそれぞれ存在感を持ち、上海市場との比較でより合理的な株価形成が期待される、②香港市場の規則や情報開示はより透明性が高く、厳格に適用されている、③株式新規公開(IPO)が活発な香港では、より多くの新たな投資機会が提供されている、などである。中国では、株価低迷期には株式需給悪化防止を目的に、行政主導でIPOをストップすることが常態化しているが、これは繰り返されてはならない。有望な新規上場会社の増加と、問題上場会社の秩序ある退場は不可欠である。インサイダー取引や株価操作の防止、透明性が高く厳格な情報開示、市場のさらなる対外開放の必要性はいうまでもない。「滬港通」は、上海株式市場の健全化と魅力向上を一段と推進するきっかけともなりえよう。
◆中国の証券当局には、「滬港通」のテスト導入が成功すれば、このモデルを「深港通」(深圳と香港)、さらには「滬台通」(上海と台湾)、「深台通」(深圳と台湾)にも適用する構想があるとされる。資本取引の段階的自由化推進の点でも「滬港通」の今後の成否が注目されよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
株主提案制度にコスト/ベネフィット分析を
世界で最もアクティビスト・ファンドにとって使いやすい日本の株主提案制度
2024年05月09日
-
医療等情報の二次利用は誰のためか
創薬・医療機器開発のみならず、医療の質の向上や効率化にも活かす
2024年05月09日
-
東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題
市場活性化の鍵を握るボランタリー・クレジットの活用
2024年05月09日
-
ガバメントクラウドは誰に任せるべきか
国産クラウドの初採用に寄せる期待と懸念
2024年05月09日
-
新興国通貨安は脱炭素に向けた投資の障害に
~通貨バスケットに連動する債券(WPU連動債)で為替リスクを低減~
2024年05月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日