中国の第12次5カ年計画における環境目標

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2011年06月24日

  • 横塚 仁士

サマリー

中国政府は深刻化する環境汚染問題への対策として、2006年から2010年までの第11次5カ年計画において単位GDP当たりのエネルギー消費量の20%の削減、大気汚染物質(SO2)と水質汚染物質(化学的酸素要求量:COD)の10%の削減などを掲げていた(図表1)。政府による関連法規の整備や、重汚染企業・設備などの強制的な閉鎖などの手段が効果を表し、大気汚染・水質汚染物質は目標を前倒しで達成した。一方で省エネについては、世界同時不況後の中国経済の急回復により2009年、2010年上期はペースが鈍化していたため目標達成が危ぶまれていたが、公表結果では19.1%の省エネを実現し、中国政府は「基本達成」という表現を用いて成果を強調している。

図表1:中国の第11次5カ年計画における環境分野の目標と実績
図表1:中国の第11次5カ年計画における環境分野の目標と実績
(※1)拘束性指標とは達成に向けて政府や行政各部門が達成義務を負う指標であり、所期性指標とは達成目標に近い指標であり、主に市場主体の行為を通じて実現されることが期待される指標である。
(※2)「目標」、「達成状況」での増減率は2005年比の値を示す。
(※3)水源から取水した水が灌漑用水として実際に利用された割合を示す。

(出所)中国政府公表資料をもとに大和総研作成

第11次5カ年計画で一定の成果を挙げたことも受けて、中国共産党・政府は2011年からの第12次5カ年計画でも引き続き環境目標の設定を決定している。2011年3月に公表された第12次5カ年計画の要綱では、前計画で設定された単位GDP当たりのエネルギー消費量、SO2とCODの削減に加えて、単位GDP当たりの二酸化炭素(CO2)排出量、アンモニア態窒素、窒素化合物(NOx)などが新たに環境目標に追加された(図表2)。

中国政府は第12次5カ年計画での「グリーン経済」、「低炭素型経済」への転換を目指しており、上記の環境汚染物質の削減を規制やインセンティブの付与など様々な手段を通じて実現する考えである。このうちCODとSO2、NOx、アンモニア性窒素の排出量については、2011年に前年比1.5%の削減を目指すことが1月14日まで開催された全国環境保全作業会議において周生賢環境保護部長(環境相に相当)により明らかにされた。 周環境保護部長は同会議で、下水処理場での排出削減や、農業分野での汚染源への対策、石炭火力発電所における脱硫・脱硝の強化などに重点的に取り組んでいくことを明らかにしている。

図表2:中国の第12次5カ年計画における環境分野の目標
図表2:中国の第12次5カ年計画における環境分野の目標
(※1)は図表1を参照。
(※2)「目標」、「達成状況」での増減率は2010年比の値を示す。括弧内の「%」は%ポイントを意味する。
(※3)は図表1を参照。

(出所)中国政府公表資料をもとに大和総研作成

中国の中央政府がエネルギー・資源の節約や環境保護を引き続き堅持する姿勢を示す一方で、いくつかの地方政府とは足並みが揃っていないことが課題となっている。国家発展改革委員会の張平主任は、第12次5カ年計画期間におけるGDPの目標について、多くの地方政府がエネルギーや資源制約などを考慮せずに高い目標数値を掲げていると批判、このような地方政府に対してGDP成長目標を合理的な水準に引き下げることを求めた。背景には、現在でも経済成長を優先させる姿勢を示す地方政府をけん制することで、エネルギーや資源の節約、環境保護を推進する狙いがあると考えられる。

中国政府は資源・エネルギー問題への対応の一環として省エネと再生可能エネルギーの普及などのエネルギー資源の多様化を進めている。同時に、経済発展に伴う大気汚染や水質汚染は改善傾向にあるとはいえ現在も深刻な状況にある。そのため、第12次5カ年計画期間中も政府による企業への規制の強化や省エネ・環境保護関連ビジネスの振興が図られると考えられ、日系を含む外資系企業にも相応の対応が求められることになるであろう。

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