サマリー
◆政府は2015年度の介護報酬を2.27%引き下げることを決めた。介護報酬は、①中重度の要介護者や認知症高齢者への対応の更なる強化、②介護人材確保対策の推進、③サービス評価の適正化と効率的なサービス提供体制の構築、という3つの基本的な考え方に立って改定された。
◆少子高齢化を背景に制度の支え手の負担が重くなっている中で、介護報酬の引下げが決定されたことは評価できる。他方、事業環境の先行き不透明感の強まりによって、事業者が介護市場への参入を躊躇することがないよう、より透明性の高い改定が今後は求められる。本来、価格を通じて効率的な資源配分を実現しようというのであれば、3年ごとではなく、改定の頻度を増やすことも検討されるべきではないか。
◆近年の介護費用の前年比の伸びを「高齢化要因」、「受給者割合要因」、「介護報酬改定率」、「その他」の4つに要因分解すると、寄与度が最も大きいのは「高齢化要因」である。また、今回の「介護報酬改定率」は2015年度の介護費用を2,300億円程度抑制する効果に相当する。
◆長期的に見ると、今回のように介護報酬の引下げによって介護費用の伸びを抑え続けることは難しくなるだろう。日本経済がデフレから脱却すれば、国内の平均的な給与水準は一般物価を上回るペースで上昇し、介護業界でも人材を確保するために賃上げが実施される必要があるからだ。
◆一定の仮定を置いて介護費用を中長期に見通すと、高齢化だけでなく介護報酬改定によっても増加することになる。高齢化と賃金上昇が相まって、介護費用とその負担は経済成長率を上回るペースで増加する可能性が高い。給付と負担のバランスを見直すために、社会保障と税の一体改革からさらに踏み込んだ改革について議論を深める必要があろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日