欧州経済見通し 新たな地政学リスク

紅海問題による供給制約・インフレ再燃の可能性/欧州経済中期見通し

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2024年01月23日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

サマリー

◆ユーロ圏の2023年10-12月期のハードデータは総じて冴えない結果となっており、7-9月期にマイナス成長に陥ったユーロ圏経済は、10-12月期もマイナス成長となった可能性が高い。一方、このところマインド統計は総じて改善基調にあることから、マインドの改善が実体経済の回復へとつながる期待が高まっている。

◆しかし、イエメンのフーシ派に対する米英軍による爆撃以降、紅海での地政学リスクが急速に高まっており、欧州経済の持ち直しに水を差す可能性がある。フーシ派による紅海での航行妨害によって世界の物流網には既に大きな影響が出ているが、これが供給制約による生産停滞、インフレ率の再加速を招く恐れがある。

◆今回のレポートでは、通常の経済見通しに加えて、今後10年間(2024年~2033年)の中期経済見通しを改訂した。ユーロ圏経済の今後10年間の経済成長率は平均で+1.2%と予想する。マイナスのGDPギャップを解消する過程にある予測期間前半においては、金融政策が緩和方向となることもあり、潜在成長率を幾分上回る成長が見込まれる。一方、予測期間後半は潜在成長率に沿った成長が続く見通しである。EUが成長戦略として掲げる、グリーン化、デジタル化による生産性の押し上げが期待される一方、生産年齢人口の減少が下押し要因となり、予測期間後半の成長率は緩やかに低下していくと予想する。

◆英国の今後10年間の経済成長率は平均+1.3%と予想する。英国経済の先行きにおいては、ブレクジットが与える影響を引き続き見極めていく必要があろう。とりわけ、ブレクジット以降、英国への対内直接投資は低迷しており、先行きも潜在成長率を押し下げる要因になると見込まれる。

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