中韓FTAと農業技術

今月の視点

RSS

2012年02月27日

サマリー

2012年は中国と韓国の国交樹立20周年である。両国は1月、中韓FTA交渉開始に向けて国内手続きを開始することで合意した。交渉に積極的な中国の狙いは、ASEAN+6(ASEAN・日・中・韓・印・豪・NZ)の経済圏の確立を前進させることだろう。韓国は中国が歩み寄りを模索しているインドとFTA合意に至っており、インドとの間接的なルートが確保される。また、米韓FTAが発効すれば、米韓両市場において中国産の農水畜産物や革・繊維に影響が出るとの試算があり、影響緩和を模索する意味もあるだろう。

ただ、韓国では農家の警戒感が強い。韓国の自給率はOECD最下位まで低下。研究機関の報告では、中韓FTAによる韓国の農業分野の損失は、米韓FTAの2~5倍になると試算されている。韓国では4月に国会議員選挙、12月に大統領選挙を控えており、世論次第では中韓FTA交渉の進展に障害が発生するかもしれない。

しかし、韓国にとって、中韓FTAのメリットも大きい。韓国はハイテク製品の輸出加速に加え、拡大著しい対中投資の果実の最大化が図れる。韓国はチリとのFTA締結を機に、04年~20年で総額143.8兆ウォン(約10兆円)の農畜産業向け予算を組み、農家経営や農業技術の革新を図ってきた。11年の韓国農産物の輸出額は72.8億ドル(約5,809億円)に達し、対中輸出では49.8%増の11.8億ドル(約942億円)と、日本やASEAN向けの伸びを凌いだ。世界への先進農業技術の伝授でも先駆的存在となっている。

さらに、中国政府は第12次5カ年計画で国外の人材誘致にも踏み込み、海外の先進的な栽培・繁殖技術や生産経営方式を導入し、農業革新を推進する強い姿勢を示している。これまで中国は食糧の中でもコメ・小麦など自給自足を追求するものや、大豆など輸入依存度を高めるものを分別してきたが、世界の食糧価格の変動や食生活の変化に対応しながら、食品価格の安定的な推移を実現するためにも、長期的な食糧供給計画の重要性が増している。

近年、韓国は中国で省エネを商機にしてきたが、今度は農業技術が1つの軸になる可能性があろう。中国はASEANとのFTA交渉で農産物市場のアーリーハーベストを持ち出して、ASEANの態度を軟化させた経緯もある。韓国外交通商部からは5月以前に中韓FTA交渉開始宣言を行う場合があるとの見通しも出ており、中韓双方のメリットの最大化を実現できるか注目である。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。