中国社会科学院「中国不動産市場の三つの未来像」

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2017年04月26日

  • 徐奇淵

中国の不動産市場が過熱状態にあるのは周知の通りである。そのような背景により、新たな調整政策が次々と打ち出されるようになっている。しかし、目下の市場の過熱状態がどのような形で収まるかについて、様々な見方がある。通常なら、住宅価格対所得比は、不動産市場にバブルが存在するか否かを評価する一般的な指標とされている。当面の不動産価格対所得比の状態を踏まえれば、良性のバブル、脆いバブル、頑健なバブルという中国不動産市場の三つの未来像を予測できると考えられる。


良性のバブル
全てのバブルが弾けるというわけではない。幸運に恵まれると、バブルが危なげなく解消されることもある。1973年までの十数年間、結婚適齢人口の持続的増加、金融緩和政策によって日本の不動産市場はバブル期を迎えていた。しかし、それ以降の状況から見ると、当時のバブルはやがて無事に解消されていったともいえる。
1973年の不動産バブル最盛期において、日本全国の名目不動産価格は1960年の10倍近くまで上昇し、不動産価格対所得比も1960年の1.5倍となった。さらに、不動産価格対所得比は、1990年の土地バブルのピークを17%ポイントも上回っていたのである。
にもかかわらず、1974年から、日本の不動産バブルは、マジックにかけられたように、徐々に解消されていった。1973年から1978年まで、日本の不動産価格はそれまでと同様、23%上昇する一方、不動産価格対所得比は33%ポイント低下した。言い換えると、名目不動産価格は依然として上昇していたが、所得と比べてみれば不動産価格の伸び率は相対的に低く、一方、同時期の国民所得が大幅に増加し、そのため、不動産バブルを解消できるようになったわけである。
いったい、日本政府はどのような対策を講じていたのだろうか。インフレ率の上昇に対応するため、日本銀行は通貨供給を抑える金融政策を打ち出し、公定歩合を1972年6月の4.25%から1973年12月の9%まで連続して引き上げるとともに、信用貸付規模を縮小させ続けた。また、不動産市場の混乱を鎮め、法人による短期保有不動産の譲渡や投機的売却に対して重税を課すことにした。また、日本の人口構造は、1980年代の後半になって初めて高齢化段階に入ったが、1970年代にはまだ人口ボーナス期にあった。さらに、税制の整備、社会保障制度の構築・整備を通じて、貧富の格差が拡大しないように調整した。それにより、国民の所得水準が大いに向上し、不動産価格対所得比も改善する方向に向かうようになった。
1970年代の日本を基準とすれば、中国の住宅不動産市場のバブルを無事に解消することは、なお困難な局面にあると考えられる。理由は以下の通りである。その一、目下、中国の金融政策が抱えている最重要課題はインフレではなく、実体経済の悪化および債務デフレというリスクにある。そのため、景気サイクルを安定化させ、資産バブルを解消することにおいて、金融政策は厳しい状況に迫られている。その二、私有地の取引をめぐる不正問題の解決は、日本政府にとっては相対的に難しくはなかったようだが、中国にとっては、土地政策と地方政府のレバレッジ比率、中央と地方の財政体制といった複雑な問題が絡んでいるため、コントロールするのはさらに難しいと予想される。その三、現在、中国はすでに人口高齢化社会に入っており、経済成長の速度も低下していくと見込まれる。その四、貧富の格差を是正し、不動産市場における需要と供給のバランスを維持することに課題があるものの、これについて中国にはまだ政策調整の余地が存在する。これら四つのうち、前の三つは、全て中国政府にとって政策で解決する難易度が高くなっている。


脆いバブル
不動産バブルが持続可能でなくなり、弾けてしまう局面をさす。これは悲観すべき状況(ただし最悪な状況ではない)であり、現在、社会が最も懸念している状況でもある。不動産バブルの崩壊は、実体経済の成長率の失速を引き起こすだけでなく、資産価格の下落や銀行不良債権率のさらなる上昇をもたらし、資本の海外流出と為替相場の下落などの圧力にもつながると考えられるからである。1980年代末から1990年代初めにかけての日本の不動産バブル崩壊がまさにそれにあたる。
市場の「力」を信じている人は、往々にしてバブルの早期崩壊を予想している。つまり、市場の調整機能により、各分野の価格は再び合理的なものとなる。また、資源の再配置により、資源が低効率の企業から高効率の企業へと移動することとなる。それが、経済が再び正常な成長軌道に戻る理由となる。
しかし、現在の中国政府と企業との明確ではない関係、国有企業改革の停滞、システマティック・リスクへの予防策の不備といった状況の下で、脆いバブルがいったん弾ければ、最大の悪影響を受けるのは、ゾンビ企業でも、大手企業、国有企業でもなく、活力にあふれる多くの民間企業、とりわけ中小企業であると考えられる。
したがって、脆いバブルが発生する場合、まず市場の競争メカニズムを整え、激しい市場競争にさらされる競争主体に平等で前向きな淘汰メカニズムを整備しなければならない。日本経済は1980年代末のバブル崩壊後、長期低迷に陥ったが、その要因の一つは、救済メカニズムが逆に淘汰のメカニズムを阻害したからであると考えられる。最も活力のある中小企業が淘汰されたのに対し、倒産には至らないまでも活力を失った一部の大手企業は、政府の庇護の下で生き延びたのである。


頑健なバブル
住宅価格に影響する各要素についていえば、短期では金融、長期では人口、中期では政策介入が挙げられる。中国の住宅不動産市場に何か特別な特徴があるかと聞かれれば、中期的な政策介入と答えることができる。例えば、土地供給に対する地方政府のコントロール、強力な資本規制、不動産税の徴収猶予、裁量的政策の自由度の大きさなどが挙げられる。
土地供給に対する地方政府のコントロールについては、香港を参考にすることができる。今まで香港で実際に開発された土地は、香港の面積全体の1/3にも達していない。土地供給の制限によって、香港の住宅価格対所得比が持続的に高止まりする状態を保っているほか、産業の空洞化、社会階層の固定化、社会分化などの問題を招いてしまった。
それに対し、大陸の地方政府は、土地供給を直接コントロールできるだけでなく、資本規制と不動産税の徴収猶予といった政策ツールを利用できる。資本規制により、大陸の住民の投資対象は主に国内に限られている。預金利息が相対的に低く、株式市場が大きく変動する状況を踏まえると、必然的に大量の資本が不動産市場に流入する。また、不動産税に徴収猶予があり、また相続税が存在しないことを考えれば、不動産は希少性を有するばかりでなく、資産価値の保持と利益獲得という特徴を備えていると考えられる。
したがって、大陸の政府が有する政策は、世界のほかのどの国よりも手段が多く、しかも効果的であり、さらに、どこよりもこの「頑健なバブル」が弾けないように長期間維持できる能力を持っている。
「頑健なバブル」を維持できる可能性は存在する。とは言え、コストを払わずに済むわけではない。資本規制、不動産税の徴収猶予などの要素は、土地供給に対する地方政府の調整効果を強化させてしまう。一方、長期にわたり高騰する住宅価格は、人材や企業投資を門前払いして、都市と国の競争力を弱めてしまう。調整効果が強いほど、産業の空洞化、社会階層の固定化、社会分化といった「香港化」する特徴を帯びてしまう恐れがある。


難しい選択
前述したように、良性バブルの実現は最も困難である。そのため、可能な選択肢は、脆いバブルと頑健なバブルのどちらかとなる。
脆いバブルは、短期的不安定性と大きな変動を招きかねないが、それにより、市場価格が再構築され、さらに新たな合理的水準に戻ることとなり、経済全体の長期的な競争力も再構築できるようになる。しかし、脆いバブルを発生させる前に、まず市場の競争メカニズムを調整し、激しい市場競争にさらされる経済主体に対し、平等で前向きな淘汰メカニズムを整備しなければならない。その際、特に活力を失った企業を延命させる逆方向の淘汰メカニズムを避けるべきだ。頑健なバブルは、短期及び中期では社会と経済の安定を維持できるが、中長期的に見ると、都市と経済の競争力をさらに弱めていくだろう。
中国の政策は、まさに上述した二つの選択肢の中から一つを選ばざるを得ない。とは言え、わかりきったことだが、いくら頑健なバブルであっても、所詮バブルにすぎないのである。

(2016年10月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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