輸出から直接投資は得策となるか?

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2011年11月28日

サマリー

欧州財政危機を発端とする世界景気鈍化から中国でも輸出鈍化懸念が台頭している。加えて外部環境の悪化が各国の対中貿易摩擦の不満を増大させている。例えば、米国が中国製品に対する反ダンピング課税を訴え、中国と蜜月な関係をアピールしてきたブラジルも人民元の評価でWTOを介し、対立姿勢を露わにするなど、太平洋を挟み中国に対する風当たりは強い。

中国も輸出依存の限界を認識しており、知的・人的財産への投資により自国の産業構造の不均衡の是正を急ぎ、同時に、賃金上昇などに伴う労働集約的産業の競争力低下による産業空洞化のリスクヘッジを模索している。この方法として、各国と互恵関係促進を目的とした対外直接投資を重視する発言が目立つようになってきた。具体的には11月10日、中国証券監督管理委員会主席が外貨準備の運用に関して、4分の1、もしくは半分を対外直接投資に回すことの有用性を説き、12日のAPECでも胡錦涛国家主席が貿易・投資の自由化と円滑化を全面的に推進すると演説で述べている。2010年の中国の対外直接投資は前年比21.7%増の688億ドルと世界第5位だった。直接投資と外資導入の比率で見ると1:2だったが、2015年頃には1:1の割合になるとの予測もある。

資源権益確保と、それに伴うインフラ整備を請け負う形で対アフリカの直接投資で成功を収めた中国。この戦略をASEAN諸国でも活用し、2010年には中国・ASEAN間でFTAの本格始動に至った。近年では中国が経済大国へと発展したこともあり、「ASEAN+3(日中韓)」の連携を重視する傾向にもある。さらに「ASEAN+6(印・豪・ニュージーランド)」などで、貿易摩擦を抱えながらも潜在的成長余地を背景に互いに無視できない存在のインドと歩み寄ることは、米国に対しても大きなインパクトを有するだろう。

いずれにしても、米国は2012年に大統領選を控えており、「自由貿易の活性化」を謳い、主導権を握る環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉やASEAN諸国の取り込みを加速させている。中国への圧力がさらに強まる可能性も高い。中国は、対外直接投資の円滑化を図りながら、IMF予測では8%台の成長が期待されるアジア新興国との基盤強化を急ぐことになろう。

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