ワシントン条約

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2013年09月06日

  • 大澤 秀一

正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」(※1)で、ワシントン条約あるいはCITES(サイテス)と呼ばれることが多い。種の絶滅や個体数の急激な減少に脅かされている野生生物を無秩序な国際取引から保護するための国際条約である。


1972年、国連人間環境会議が同条約の早期採択を勧告した。これを受けて米国政府と世界自然保護連合(IUCN)などが準備を整え、1973年、米国・ワシントンD.C.の会議で採択された。発効は1975年7月1日で、現在の締約国は178ヵ国に及ぶ(2013年8月現在)。日本は1975年4月30日に署名し、1980年11月4日に締約国になった。条約の採択日(3月3日)前後に同条約の締約国会議(※2)が開催されている。


同条約では、絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を、絶滅のおそれの程度に応じて附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分類し、掲載された種についてそれぞれの必要性に応じて国際取引の規制を行う(図表)。規制対象は生きている動植物のみならず、はく製、一部分、加工製品(皮革製品及び象牙彫刻品等)も含まれる。


図表 掲載基準と規制内容



日本では、同条約該当種すべての輸出入管理について、「外為法(外国為替及び外国貿易管理法)」に基づく「輸入貿易管理令」および「輸出貿易管理令」によって実施している。管理当局は、海からの持ち込み以外は経済産業省、海からの持ち込みは農林水産省である。


同条約はこれまで多くの種の絶滅を食い止めることに貢献してきたと考えられるが、アフリカやアジアにある途上国などの一部の国では、活動資金や人材の慢性的な不足から違法取引に有効な歯止めがかからないという課題が指摘されている(※3)


また、条約締約国は附属書に掲載される種について留保を付すことができ、留保した種については締約国でない国として扱われることも問題として取り上げられることがある。日本が留保している種は附属書Ⅰについてはクジラ7種(マッコウクジラ、ツチクジラ、ミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ナガスクジラ、カワゴンドウ)、附属書Ⅱについてはサメ8種(ジンベイザメ、ウバザメ、ホホジロザメ、ヨゴレ、シュモクザメ3種、ニシネズミザメ)及びタツノオトシゴである(※4)。クジラ7種については,持続的利用が可能なだけの資源量があり、附属書Iに掲載されていること自体に科学的根拠がないこと、クジラ以外についても、科学的情報が不足していることや地域漁業管理機関が適切に管理すべきこと等が留保の理由である。なお、日本が最大の消費国になっているクロマグロやニホンウナギについては、他国から附属書への掲載を求める動きはあるものの、未だ掲載には至っていない。




(※1)ワシントン条約事務局ウェブサイト

(※2)外務省「ワシントン条約第16回締約国会議」

(※3)例えば、2010年3月にワシントン条約締約国会議に提出されたCoP15 Doc44.1「The Elephant Trade Information System (ETIS) and The Illicit Trade in Ivory」(著者:T. Milliken, R.W. Burn and L. Sangalakula)の和訳版(http://www.trafficj.org/publication/Cop15Doc44.1_ETISj.pdf)。

(※4)外務省ウェブサイト「ワシントン条約」


(2013年9月6日掲載)

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