2011年06月22日
サマリー
2011年3月10日、OECDは加盟10カ国(オーストラリア、カナダ、チェコ、フランス、イタリア、韓国、メキシコ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン)の1万以上の世帯から得た回答をもとに、家庭における水の使用、エネルギーの利用、個人の交通手段選択、有機食品の消費、廃棄物の発生とリサイクルの5分野における効果的な措置や影響を及ぼし得る要因についての調査を発表した(※1) 。この中で、水の消費に対して従量課金されている世帯の方が、されていない世帯に比べて20%も消費量が少なく、環境関連資源の利用(消費)に従量料金制をとることで消費者の意思決定に影響を及ぼすことが示唆されたとしている。
日本では、東日本大震災をきっかけにした電力不足のため、節電が求められている。特に7~9月の平日ピーク時間帯(9~20時)における需要の削減(ピークカット)が喫緊の課題となっている。
そのためにはOECDの報告書にあるような価格面でのインセンティブが一つのアイデアとなろう。東京電力の場合、契約アンペアや契約電力量別に基本料金が設定されているため、大口の基本料金を値上げ・小口の基本料金を値下げすることで、ピークを下げることが期待できる(※2) 。契約アンペアは、ピーク時の電力使用量を想定して契約しているからである。従量課金部分を値上げすると逆進性が働いて、低所得者や小規模事業者に、より不便を強いることになるが、基本料金部分の値上げであれば、大口利用者の節電を促す効果があろう。この方法の問題点は、ピーク時間帯における電力使用量をリアルタイムに把握する方法がないため、契約アンペアを変更するための機器使用のタイミングや設定をどのように変更すればいいか、判断が難しいことである。電力供給量を気にしなくても済む今までのような生活は我慢するとしても、著しく生活の質を下げるような節電では継続しない。
企業でも一般消費者でも、消費電力の見える化が省エネ行動を無理なく促進することは各種実験結果から明らかである(※3)。海外では省エネ推進を目的の一つ(※4)として、スマートメーター導入が活発化している。欧州委員会は「スマートメーターを2020年までに全世帯の80%、2022年までに100%導入」という指令を出しており、イタリア、スウェーデンのように、ほぼ全ての需要家に導入した国も出てきている。日本では経済産業省の「スマートメーター制度検討会」が2011年2月に、エネルギー基本計画にあるように『「費用対効果等を十分考慮しつつ、2020 年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入」が実現されるよう、官民一体となって取り組んでいくこと』を期待するとする報告書(※5)を発表した。スマートメーター導入に関しては欧米が先行している状況である。
一方、スマートメーターに頼らないでリアルタイムにエネルギーの需要情報を管理する方法もある。分電盤(※6)や家電等、個々の機器の電力消費量を計測し、その情報をネットワークでつないでホームゲートウェイで管理するHEMS(Home Energy Management System)である(図表1)。需要家から見れば、電力の使用状況を知るための手段としては、メーターとシステムのどちらでも構わない。
震災前までの日本の電力会社は、検針の自動化くらいしかメリットを見出せなかったためコストをかけてまでスマートメーターを導入する動機が少なかった。中長期的に考えれば、何らかのエネルギー需給管理の仕組みの導入は避けられない。新たなエネルギー基本計画では、スマートメーター導入のスケジュールを前倒しするか、HEMSの導入を推進するような需要家に対する補助等の施策が望まれる。
図表1 HEMSとスマートメーターの設置イメージ
(注)宅内ネットワークは有線・無線どちらもあり得る。
(出所)大和総研作成
(※1)OECD「報告書”家庭行動のグリーン化”発表」
(※2)基本料金の値上げは、低い契約量への変更を促し機器を同時に使わないように利用者の行動を変える可能性があるため。
(※3)例えば東大の「東大グリーンICTプロジェクト電力危機対策」
(※4)国によって主要とする目的は違うが、省エネ以外では「盗電対策」「障害の早期発見」「検針コストの削減」「再生可能エネルギー導入推進」等がある。
(※5)経済産業省「スマートメーター制度検討会 報告書」
(※6)日本では「省エネナビ」と言われる分電盤に取り付ける製品をエネゲートや中国計器工業が提供。海外では英国AlertMe、米国4Home(2010年12月、Motorola Mobilityが買収)等がメーターや家電をつないで消費電力を管理する製品を提供。つなぐ機器の一つにスマートメーターがあるものもある。
埼玉県、千代田区、杉並区、荒川区、厚木市、鎌倉市、静岡県三島市、福岡県等多数の自治体で「省エネナビ」等の計測機器を、随時一定期間(3カ月間等)貸し出している。
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