第193回日本経済予測を発表

景気回復が続く中、地域経済はどう動く?~長時間労働是正やプレミアムフライデーの影響などを検証~

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2017年05月24日

改訂レポートのお知らせ

第193回日本経済予測は、2017年6月8日に第193回日本経済予測(改訂版)を発表しております。


  1. 日本経済は一時的な成長加速局面を経て、内外需のバランスの取れた緩やかな成長軌道へ:2017年1-3月期GDP一次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は、2017年度が前年度比+1.5%(前回:同+1.4%)、2018年度が同+1.1%(同:同+1.1%)である。先行きの日本経済は、①堅調な外需、②在庫投資に支えられる形で2017年度にかけて成長が加速したのち、2018年度は、①本格的な雇用環境改善、②生産性向上投資を牽引役として、内外需のバランスの取れた成長を続ける見通しだ。本予測では、以下の三つの論点について考察した。
  2. 論点①:産業構造から浮かび上がる地域経済の特徴は?:産業連関表と県民経済計算における産業別付加価値額を用いて、日本全体における需要項目の変化が各都道府県に及ぼす影響を検証した。製造業の集積する東海地方等は輸出拡大による生産誘発が大きい一方、金融業等のサービス業が集積する南関東地方等は国内消費の増加による生産誘発が大きい。輸出と消費の生産誘発効果を比較することで、各都道府県は三つの成長モデル(=①輸出牽引型、②国内消費牽引型、③県内完結型)に分類することができる。アベノミクス開始以降の外需主導の成長は、輸出牽引型の都道府県を中心に恩恵をもたらしてきたものの、今後は内外需バランスの取れた成長が展望できることから、景気拡大の恩恵は全都道府県に広く及ぶことが見込まれる。
  3. 論点②:長時間労働の是正・プレミアムフライデーで消費は増えるのか?:労働時間の削減が余暇時間等の変化を通じて消費に与える影響を定量的に検証した。労働時間が削減されると大半の余暇時間は増加するが、「交際・付き合い」「食事」等の時間は減少するため、消費全体に与える有意な影響は確認できなかった。しかし個別に見ると、食料、衣料、交際費にはマイナス、光熱、教養娯楽、理美容、身の回り用品ではプラスの影響がありそうだ。消費全体が盛り上がる好循環を作るには、労働生産性の向上による賃金引き上げが必要だろう。余暇時間の約半分はテレビに費やされるが、特に現役世代を中心にインターネットの利用時間が拡大する中で、今後、ネットショッピングでの購入額が多い旅行関連や食料品、家電といった分野での消費拡大が期待される。
  4. 論点③:世界経済の「落とし穴」を点検する:景気回復を受けて、米欧では金融政策の出口を睨んだ政策変更が進められており、中国でも「緩和」から「中立」方向へと金融政策スタンスが調整され始めている。しかし、米欧の中央銀行が「出口戦略」を進めると、リスクシナリオとして、世界経済はベースラインのシナリオから、2017年に▲0.04%、2018年に▲0.16%、2019年に▲0.31%下押しされる可能性がある。また、今後のグローバル金融市場の変調をいち早く察知するには、米債券市場の動向を丹念に点検することが有効だ。さらに、政府債務と企業債務の動向を確認すると、中国の企業債務の急増が世界経済のリスク要因となっている点に警戒する必要があるだろう。
  5. 日本経済のリスク要因:今後の日本経済のリスク要因としては、①トランプ大統領の政策、に加えて、②中国経済の下振れ、③米国の「出口戦略」に伴う新興国市場の動揺、④地政学的リスクおよび政治リスクを背景とする「リスクオフ」、⑤英国のEU離脱交渉や欧州金融機関のデレバレッジ、の5点に留意が必要だ。
  6. 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は17年度+3.8%、18年度▲1.1%と想定。
(2)為替レートは17年度112.5円/㌦、18年度112.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は17年+2.1%、18年+2.3%とした。