第191回日本経済予測を発表

トランプ・ショックで日本経済に何が起きるのか?~①海外投資行動、②個人消費、③経済統計の改善を検証~

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2016年11月21日

改訂レポートのお知らせ

第191回日本経済予測は、2016年12月16日に第191回日本経済予測(改訂版)<訂正版>を発表しております。


  1. トランプ・ショックで日本経済に何が起きるのか?:2016年7-9月期GDP一次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2016年度が前年度比+1.1%(前回:同+0.9%)、2017年度が同+0.9%(同:同+0.9%)である。先行きの日本経済は、①実質賃金の増加、②原油安と交易条件の改善、③経済対策の実施、などの国内要因が下支え役となり、緩やかに回復する見通しである。ただし、米国大統領選挙におけるトランプ氏の勝利が、主に①円高、②株安、③世界経済の減速、という波及経路を通じて日本経済に負の影響を与えるリスクがある。とりわけ中長期的には、同氏の勝利を受けて、世界経済の先行き不透明感が強まり、グローバルな金融市場において、リスクオフによる世界的な株安や急速なドル安の動きが生じる可能性もあるだろう。
  2. 論点①:企業の海外投資行動に見られる特徴と国内への波及効果:日本経済の潜在成長率と期待成長率が低水準にとどまる中、企業は海外展開に成長の活路を見出している。国内法人と海外現地法人の投資行動を分析すると、合理的な戦略の下、国内の設備投資を絞り、アジアや北米に資源を振り向けていることが分かる。また、足下では実質GDPと実質GNIの乖離が大きくなっている。これは、交易条件の改善に加えて、企業の海外投資の進展に伴い海外現地法人からの所得が国内に還流していることによるものである。2015年度の実績値に基づくと、海外利益の国内還流による押し上げ効果は、雇用者報酬が3.2兆円、名目個人消費が2.4兆円程度と試算される。
  3. 論点②:個人消費はなぜ低迷を続けているのか?:2014年の消費税増税から2年半が経過したが、依然として個人消費は低迷を続けている。短期的要因として、年金特例の解消や可処分所得の伸び悩み、過去の景気対策の反動などが個人消費の重石になっていたと考えられ、2012~14年度までの個人消費を合計1.3%pt程度下押しした。一方、今後は節約志向の強まりや将来不安の高まり、若年層の雇用、といった構造的な問題が、中長期的に個人消費の重石となろう。政府には、持続可能な社会保障制度の構築や「同一労働・同一賃金の原則」の導入に向けた取り組みを加速させていくことなどが期待される。
  4. 論点③:経済統計の改善に必要なものは何か?:諸外国と比較した場合、日本の統計は「正確性」、「速報性」という二つの要素で見劣りする。潜在成長率が低下している日本では、まずは「正確性」の向上を目指すべきだ。具体的な統計の改善方法を検討するため、家計調査を用いた分析を行った。「財」では振れの大きい項目を適切な統計に入れ替えることで、過小推計を解消することができる。一方、「サービス」では家計調査を補完する数値を用いても供給側の数値よりも弱い状況が続く。GDPの過小推計につながっている可能性もあるため、周辺統計の丁寧な検証が必要だ。今後はこうした詳細な分析を通じて問題点を明らかにし、用途に応じた対応策を考えることが求められる。
  5. 日本経済のリスク要因:今後の日本経済のリスク要因としては、①トランプ氏の政策、に加えて、②中国経済の下振れ、③米国の「出口戦略」に伴う新興国市場の動揺、④地政学的リスクおよび政治リスクを背景とする「リスクオフ」、⑤英国のEU離脱交渉や欧州金融機関のデレバレッジ、の5点に留意が必要だ。
  6. 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は16年度+6.8%、17年度▲2.4%と想定。
(2)為替レートは16年度106.8円/㌦、17年度108.3円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は16年+1.5%、17年+2.1%とした。