第171回日本経済予測

-「欧州ソブリン危機」が日本経済に与える影響を検証する-

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2011年11月17日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 増川 智咲
  • 齋藤 勉

サマリー

(1)2012年度の経済見通しを大幅に下方修正:2011年7-9月期GDP一次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比+0.5%(前回予想:同+0.1%)、2012年度が同+1.8%(同:同+2.6%)である。2011年度については、過去の実質GDP成長率が遡及改訂(上方修正)されたことなどを受け、経済見通しを上方修正したものの、2012年度に関しては、海外経済の減速などを勘案し、見通しを下方修正した。

(2)日本経済・世界経済の減速懸念が強まる:足下の主要経済指標を見ると、2011年の夏場以降、日本経済・世界経済の減速懸念は着実に強まっている。日本経済は、「輸出主導型」の経済構造を有する為、現状は「踊り場」から「二番底」に入る瀬戸際であると考えられる。とりわけ、最大の懸案である「欧州ソブリン危機」の展開次第では、日本経済が「二番底」に陥るリスクを否定し得ない。

(3)「欧州ソブリン危機」が日本経済に与える影響を検証する:本予測では、「欧州ソブリン危機」が日本経済に与える影響について定量的に検証した。具体的には、欧州諸国の国債のヘアカット率に関する3つのシナリオを設定した上で、日本経済に与える影響を算定した。当社のシミュレーションによれば、最悪のケースでは、わが国の実質GDPは4%以上押し下げられる可能性がある。試算結果については、相当程度の幅を持って見る必要があることは言うまでもないが、今後の「欧州ソブリン危機」の展開次第では、日本経済が「リーマン・ショック」並の打撃を受けるリスクが生じよう。さらに、「欧州ソブリン危機」が深刻化すると、グローバルなマネーフローが「逆流」し、アジアを中心とする「新興国」の株価が暴落する可能性もある。こうした事態を回避する為に、欧州諸国には、「ポピュリズム」の風潮に流されることなく、財政規律を着実に回復させることが強く望まれる。

(4)日本経済のメインシナリオ:今後の日本経済は、メインシナリオとして、東日本大震災発生に伴う「復興需要」に支えられて緩やかな景気拡大が続く見通しである。当社の試算では、復興関連予算は、2012年度の実質GDPを1%弱押し上げることが期待される。さらに、「資本ストック循環」などの面から見て、設備投資関連指標に回復の兆しが生じていることも、日本経済を下支えする要因となろう。

(5)日本経済の3つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、(1)原発停止に伴う生産の低迷、(2)世界的な金融市場の混乱を受けた海外経済の下振れ、(3)円高の進行、などに留意が必要である。仮に、わが国で全ての原発が停止した場合、実質GDPに対しては1%以上の低下圧力がかかる可能性がある。他方で、現状の米国では、世界大恐慌期やわが国の平成不況期とは異なり、(1)政策対応が迅速、(2)労働市場が柔軟、(3)金融システム不安が後退、などの理由から、財政・金融面の「出口戦略」を急ぐことがなければ、「デフレスパイラル」を伴うような「長期構造不況」は回避される公算が大きい。ドル円相場は、当面、円高・ドル安圧力がかかり易い状況が継続するものの、向こう半年~1年超のタイムスパンで見れば、緩やかな円安・ドル高基調に回帰する見通しである。

(6)日本銀行の金融政策:日本銀行は少なくとも2013年度いっぱい、政策金利を据え置く見通しである。円高が進行するなど、景気下振れ懸念が強まる局面では、日本銀行が「基金の積み増し」を中核に据えた追加金融緩和に踏み切る可能性が高まろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は2011年度+1.6%、2012年度+13.8%と想定。消費税率引き上げは想定せず。
(2)為替レートは2011年度78.9円/ドル、2012年度78.0円/ドルとした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は2011年+1.8%、12年+2.3%とした。

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