ESGニュース
米環境保護局、発電部門における新たなCO₂排出規制案を発表

2014年6月23日

米環境保護局(EPA)は2014年6月2日、発電部門における新たなCO₂排出規制案を発表した(※1)。これは大気浄化法(Clean Air Act)に基づき、米国内の既存の発電所におけるCO₂排出を規制するもので、EPAが各州に発電部門において達成すべきCO₂排出基準を設定し、基準を達成するための行動計画の提出および実施を義務付けるものだ。EPAはこの規制の実施により、これまでの対策と合わせて発電部門におけるCO₂排出量を2030年に2005年比で30%削減できると見込んでいる。

各州に適用される排出基準は、州の排出削減ポテンシャルに応じて設定され、2030年に約0.10kgCO₂/kWh(ワシントン州)から約0.81kgCO₂/kWh(ノースダコタ州)まで、かなりの幅がある(※2)。米国における既設の火力発電所のCO₂排出量は、石炭火力で平均約1.02kgCO₂/kWh、LNG火力で平均約0.51kgCO₂/kWh、(※3)最新のLNGコンバインドサイクル発電でも平均約0.37kgCO₂/kWhとされており(※4)、個々の発電所の取り組みだけでは達成が難しいケースも考えられる。

ただし、削減目標の達成手段は発電部門における対策に限定されず、需要側管理や再生可能エネルギー買取制度、排出権取引制度など幅広い施策を選択できるとされている。各州は、発電部門での技術革新のほか、発電部門以外での対策も求められることになるだろう。

オバマ政権は2009年の政権発足当初から、気候変動対策を医療保険制度改革と並ぶ重要な政策課題とし、連邦レベルでの温室効果ガスの排出権取引制度の導入を目指していた。2009年から2010年にかけて議会には複数の関連法案が上程されたが、金融危機後の景気低迷と産業界および共和党の反対、そして2010年の中間選挙での民主党の敗北を受け、いずれも廃案となった。2012年の議会選挙後も温室効果ガスの排出規制に反対する共和党が下院で過半数を維持しており、排出規制の立法が困難なことから、既存の大気浄化法に基づく排出規制という、大統領権限で実行可能な行政措置に踏み切ったかたちだ。EPAは本年1月、既に新設の火力発電所を対象とするCO₂排出規制案を発表しており、今回の規制案はそれに続くものだ。

今回発表されたCO₂排出規制案は今後パブリックコメントに付され、2015年6月までに最終規則が公表される予定である。最終規則が決まれば、各州は2016年6月までにEPAに行動計画を提出することが求められる。

発電部門のCO₂排出量は米国の温室効果ガス排出量の約3割を占めており、この規制が実施されれば、米国の気候変動対策にとっては大きな前進となる。発電部門においては、CO₂排出量の多い石炭火力からCO₂排出量の少ないLNGコンバインド火力へのシフトが進む他、省エネ投資、再生可能エネルギー投資が進むことなどが予想される。また、オバマ政権が国内での排出規制導入に成功すれば、諸外国にも一層の排出削減に向けた行動を要求する可能性がある。このところ停滞している気候変動対策をめぐる国際交渉も、再び活性化するかもしれない。

ただし、実際には排出規制の実施にはハードルも多い。大気浄化法に基づく行政措置とは言っても、新たな立法によって大気浄化法が改正されれば、規制の導入が困難になる可能性がある。今秋に予定されている中間選挙で、排出規制に反対する共和党が躍進した場合、そうした立法の可能性も高まることになる。排出規制の実施には産業界からの反対も強く、既に商工会議所や製造業の業界団体が、連名で排出削減に反対する声明を発表している(※5)。また、石炭産業の盛んな州では、共和党のみならず民主党からも規制に反対する声があがっている(※6)

オバマ政権が“オバマケア”に続き、気候変動対策でも政権発足当初からのアジェンダを実行することができるか、今秋の中間選挙の動向とともに注目したい。

(※1)EPA“Clean Power Plan Proposed Rule
(※2)EPAの規則案原文では、州の削減目標は“lbs(ポンド)CO₂/MWh”の単位で示されている(1lb=453.59237g)。本稿ではkgCO₂/kWhに換算した。
(※3)EPA “Air Emissions
(※4)最新のLNGコンバインドサイクル発電のCO₂排出量については下記資料による。
EPA “Clean Power Plan Proposed Rule
(※5)U.S. Chamber of Commerce “Coalition Comments on Proposed GHG Standards for New Power Plants
(※6)ケンタッキー州の民主党上院議員候補グライムズ氏は、排出規制案の発表を受け、オバマ大統領の石炭産業への攻撃に強く反対すると訴えている。

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