ESGニュース
誰が読むのか、スチュワードシップ・レポート

2014年1月31日

日本の上場株式に投資する機関投資家が、投資先企業との対話等を行うことで企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目指して、日本版スチュワードシップコードの検討が進められている(※1)。投資先企業の株主総会議案に対する議決権行使や、建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うことなど幅広い活動が期待されている。2013年暮れにコードの原案(※2)が公表され、2014年2月3日までパブリック・コメントを募集中だ。

日本版スチュワードシップコードは、これに賛同して参加を表明した機関投資家に対して、取組方針や実践結果の公表・報告を求めている。公表すべきとされているのは、次のような項目だ。

  • 「コードを受け入れる旨」(受入れ表明)及びスチュワードシップ責任を果たすための方針など「コードの各原則に基づく公表項目」(実施しない原則がある場合には、その理由説明を含む)を公表する
  • スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、公表する
  • スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、公表する
  • 議決権行使について、明確な方針を策定し、公表する
  • 議決権の行使結果について、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表する
  • 議決権行使助言サービスを利用する場合には、その利用状況を公表する

顧客や受益者に対しては、次のような報告を機関投資家は行うべきであるとされている。

  • 投資信託や投資顧問等資産運用者としての機関投資家は、直接の顧客に対して、スチュワードシップ責任をどのように果たしているかを、定期的に報告を行う
  • 年金基金や保険会社等資産保有者としての機関投資家は、受益者に対して、スチュワードシップ責任を果たすための方針と、当該方針の実施状況を、少なくとも年に一度報告する

この報告に関しては、顧客・受益者に対する個別報告が事実上困難な場合などには、報告の代わりに一般に公開可能な情報を公表することも可とされている。投資信託や生命保険などのように顧客・受益者が多数である場合には、個別報告ではなく公表によることになるだろうと思われる。

今後、機関投資家は、日本版スチュワードシップコードの受け入れ表明を行い、日本版スチュワードシップコードの各項目に対してどのように臨むかを公表することとなるだろう。これを、スチュワードシップコードの元祖である英国では、スチュワードシップ・ステートメントという。さらに、定期的に議決権行使やエンゲージメント等の活動について公表するが、これをスチュワードシップ・レポートなどという。現在でも、投資信託や投資顧問等は、業界ルールに則り、議決権行使の集計結果の公表を行っているが、今後はそれをベースに投資先企業との対話などスチュワードシップ責任の遂行状況を今まで以上に厚く説明することになるだろう。

日本版スチュワードシップコードに関するステートメントやレポートなどの公表資料は、まず顧客・受益者に向けたものであるはずだが、果たしてどれほど読まれるかは、はなはだ疑問である。というのも、現在行われている議決権行使の集計結果の公表に対して顧客・受益者からの問い合わせは、一部の年金基金からの数件を除けば、ほとんど無いようなのである。もちろん問い合わせが無いからと言って、直ちに顧客・受益者が無関心というわけではないかも知れないが、多くの顧客・受益者が高い関心を持っているということではないだろう。同じように、日本版スチュワードシップコードに関するステートメントやレポートなども多くの読者を得られるということは、おそらく期待しづらいのではないだろうか。

とはいえ、一部の年金基金等が読むことは確かであるうえ、顧客獲得にあたっては、今後一層重要な営業ツールになるかもしれない。というのも、日本版スチュワードシップコードの検討と並行して行われていた「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」(※3)では、年金積立金管理運用独立行政法人や各種の公務員共済を念頭に置いて、スチュワードシップコードへの取り組みを運用委託先の選考等において勘案すべきとの方向が示されているのである。この有識者会議が2013年11月に取りまとめた最終報告で「各資金において、金融庁で行われている日本版スチュワードシップ・コードに係る検討の結果等を踏まえた方針の策定・公表を行い、運用受託機関に対して当該方針にのっとった対応を求めるべきである」(※4)とされている通りだ。日本版スチュワードシップコードに関するステートメントやレポートの内容が、運用受託契約の獲得や維持に影響をもってくるかもしれないのである。

海外の年金基金や政府系ファンドからの運用契約の獲得についても同様のことがいえる。既に、運用委託先の選考に当たっては、投資先企業の企業ガバナンスなどの問題について、どのように対話を行うのか、方針や実績を説明することが機関投資家に求められるようになっている。海外に顧客を求めるのであれば、日本版スチュワードシップコードに関する充実したステートメントやレポートを海外に発信していくことも有効であろう。

日本版スチュワードシップコードに関するステートメントやレポートの作成には少なからぬ労力と費用を要するはずだ。日本版スチュワードシップコードの原案でも、「機関投資家は、こうした対話や適切に行うため必要な体制の整備を行うべきである」と記されている。機関投資家のこうした努力を成果に結び付けていくためには、日本版スチュワードシップコードに関するステートメントやレポートの読者を想定し、それに訴求する内容とすることが、まずは必要になるだろう。


(※1)金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
(※2)「責任ある機関投資家」の諸原則(案)
(※3)内閣官房「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」
(※4)「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」報告書

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