ESGニュース
CSR格付けやランキングの作られ方と使われ方の問題点

2012年10月16日

環境調査部 鈴木 裕

CSRやESGに関する質問状への対応は、上場会社のCSR担当者やIR担当者の頭を悩ませている。欧米を中心とする多くの調査業者から質問状が舞い込み、その回答作成が大きな負担になっていると聞く。世間に知られていない調査業者の質問状に苦労して答えても、何の効果もないとすれば、骨折り損のくたびれもうけだ。

調査された結果であるCSR格付けやランキングの利用者にとっても、質問状の内容に無関心ではありえまい。利用者自身の価値観にそぐわない作られ方の格付けやランキングを利用することはできないはずだからだ。こうしたCSR格付けやランキングの調査対象となる企業及び利用者の双方にとって有益な情報になるかも知れないのが、調査業者に対する調査だ。


調査業者ごとの評点の格差
英国環境庁は、2004年にCSR調査業者に関する包括的な調査を行っている(※1)。調査業者の調査手法は多様であり、重点を置くテーマ(環境対策なのか、業績への影響なのか、労働問題なども含めるのかなど)も調査業者によって異なることが浮き彫りになっている。質問状を送りつけてくる調査業者が何を軸として企業評価を行うかを知るには、役立つ情報である。また、調査の体制も業者ごとに大きく異なるようで、20人を超えるアナリストを雇用する業者もあれば、片手で数えられるほどのごく少数で多くの企業評価を行っている業者もある。調査時点が古いため、その後の増減もあろうが、世界数千社をカバーするには果たして十分な陣容であるか疑問も感じる。

調査の重点項目や調査体制が業者ごとに大きく異なることを反映してか、英国環境庁の調査では興味深い事実が明らかにされている。調査対象となった企業への評点が、調査業者間での相関が弱いか、ほとんど無相関であるように見える。ある調査業者の評点と他の調査業者の評点との相関を見ると、ある業者からは高い評価を得ている企業が他の業者からの評価が低いという事例は珍しくない。比較する調査業者によっては、相関係数を計算すると負になる場合さえあり、ある業者の高評価が他の業者の低評価になりがちな傾向さえ見てとれそうだ。


利用されないCSR格付けやランキング
CSR調査の評点は、調査業者によってバラバラの状態のようなのだが、こうした不安定な結果が投資家や消費者、取引先の判断に影響を及ぼしているとすれば、調査業者の信頼性が問われなければならない。こうした視点から調査業者を採点しようとする企画が「Rate the Raters」だ。CSRやESGの専門家にアンケート調査を行って、どの調査業者が認知されているか、調査情報はどのように活用されるかを明らかにしている。

先ごろ公表された第5次報告書(2012年9月)では、世界70か国850人の専門家が協力し、調査業者への評価が行われた。これによれば、多くのCSR格付けやランキングのうち、専門家の過半数が一定程度の親近感を覚えると回答したのは、「Dow Jones Sustainability Index」、「Carbon Disclosure Project (CDP) Leadership Index」、「FTSE4Good Index Series」の三つにすぎず、中には親近感を覚える割合が一けた台にとどまるものもある。多くの格付けやランキングの中には専門家にもよく知られていないものが少なくないことがわかる。企業側が、専門家によく知られている格付けやランキングに対してのみ、選択的に回答するならば、この情報は参考になるだろう。この報告書では、格付けやランキングの信頼度の調査も示されており、「Carbon Disclosure Project (CDP) Leadership Index」の信用度が際立って高い。一方で、信用する(Credible)と答える者より、信用しない(Not credible)と答える者の方が多い格付けやランキングも複数あり、調査業者の信頼性には大きな幅があるようだ。

こうした調査に回答する企業側として最も気になることは、回答の苦労が報われたかということだろう。果たして格付けやランキングは、どの程度実際に使われているのだろうか。これを投資判断ということでみると、実はあまり利用されていないようなのである。投資等の判断の材料として利用する頻度の回答を見ると、回答者の28%が一年に一回以下で、同じく28%が全く利用しないということである。一般的な企業情報を得るためのツールとしては、もう少し利用頻度は高いのだが、それでも回答の苦労が報われているかは疑わしい。

かつて筆者は、CSR調査において調査対象とのコミュニケーションも重要であると指摘した(※2)が、情報利用者とのコミュニケーションも、一層重要であろう。使われない情報を大量に作り出すことは、貴重な資源の無駄遣いに等しい。回答が有効に活用されるならば、企業側からの回答率も上がり、調査の信頼性も向上するはずであるし、企業側の徒労感も減ずるだろう。


政策への影響を軽視するCSR格付けやランキング
環境問題、温暖化問題への企業の取り組みを促進するべきという立場から、CSR格付けやランキングの方法の誤りを指摘する声もある(※3)。排出するCO2の削減に関する取り組みや環境報告書の公表といった環境配慮を基準として企業を評価する手法には重大な欠点があるという。企業が政治キャンペーンに資金を提供することで、国家の環境政策に影響を及ぼしていることを看過しているというのである。地球レベルでの環境保護に後ろ向きの政治的活動に企業が資金提供しているとすれば、たとえ自社ビルでのCO2削減を実現したとしても、その企業の環境への取り組みに高い評価を与えることは誤りであるとの指摘だ。

たとえばCO2削減への取り組みを判断要素として投資先を選択しようとするESGファンドにとっては、CO2規制を緩和・撤廃しようとする政治キャンペーンに資金を提供する企業は避けたいはずだが、現在のCSR格付けやランキングの多くはこうした情報を織り込んでいないので、投資の判断材料として利用できないことになってしまう。2010年のCitizens United対連邦選挙管理局の訴訟以降、政治キャンペーンに対する企業の資金提供を投資判断等の材料にするべきとする動きもある(※4)が、投資家の方針を十分に考慮してCSR格付けやランキングが作られているわけではない場合もあるということだ。利用者の価値観が反映されない格付けやランキングであれば、あまり利用されないとしても不思議はない。


期待される調査業者の情報開示
CSR関連の調査では、調査手法が多様であるし、調査の重点にも相違が見られる。調査結果がほとんど相関していないのは、こうした手法や調査視点が一様でないのであるからむしろ当然のことのようにも思える。

CSR格付けやランキングは、2000年以降急激に増えており、その中から利用者が自分自身の判断基準に沿ったものを選ぶのは難しい。CO2削減というテーマでさえ、原子力発電所をポジティブに評価するか、それとも否定的にとらえるかで立場は分かれる。利用者が正しい選択をするには、CSR調査業者がどのように企業を評価しているか、その基準や手法を詳細に開示する必要があろう。また、多くの調査業者に回答する企業にとっても、どのような利用のされ方をする格付けやランキングであるかを知ることができれば、回答先を絞ることも可能になろう。企業経営に何の影響を及ぼさないような質問状にまで回答する必要はない。調査業者は、調査結果がどの程度、誰によって利用されるかを分かり易く開示するべきである。

ここで紹介した英国環境庁やRate the Ratersの情報は、一過性のものだ。CSR格付けやランキングの信頼性向上、利用の拡大を図るには、調査業者からの一層の情報開示が期待されるのではないだろうか。


(※1)Environment Agency(2004), “Corporate Environmental Research A review of environmental rating, ranking and indicies
(※2)大和総研コラム「効率的なCSR調査に向けて」(2005年2月22日付)
(※3)Auden Schendler and Michael Toffel(September21, 2011)“What Environmental Ratings Miss
(※4)ESGニュース「企業の政治活動とガバナンスの交錯」(2012年2月24日付)
大和総研調査季報 「『ビジネスと人権』を巡る国際動向と企業経営への影響~コーポレート・ガバナンスと社会的課題~」(2012 年 新春号 Vol.5)

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