ESGニュース
地熱発電と温泉の共生に向けた第一歩になるか-新ガイドライン通知

2012年3月23日

環境・CSR 調査部 小黒 由貴子

環境省は、温泉法に基づき、温泉資源の保護を図りながら地熱発電導入をする際の判断基準を示すことを目的とした「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)(案)(※1)」に対して、2012年2月3日から22日の間、パブリックコメントの募集を行った。メール、ファクス、郵送で受け付け、計120通、延べ382件の意見が集まった。このガイドラインは、2010年6月の「規制・制度改革に係る対処方針」と同年9月の「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」の2つの閣議決定を受け、2011年6月に設けられた環境省の「地熱資源開発に係る温泉・地下水への影響検討会」で検討されていたものである。検討会の委員は大学や産業技術総合研究所の有識者で構成され、必要に応じて地熱発電事業者や温泉関係者等が参加し、各者の実情の説明等を行った。

環境省はパブリックコメントと温泉小委員会(※2)での意見交換等を受けて、2011年度中に「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)」を都道府県に通知する予定である。


このガイドラインは既存の「温泉資源の保護に関するガイドライン(平成21年版)」の一部を構成するものではあるが、利便性を高めるために分冊としてまとめられた。地熱発電開発の各段階における掘削等による温泉資源への影響を判断するために必要な資料と、許可・不許可の判断基準の考え方を示している。また現在、稼働している地熱発電所一体を対象としたシミュレーション等を試行した結果や、モニタリングや情報公開の重要性、協議会等の設置によるパートナーシップ構築の重要性等にも言及している。


世界有数の火山国である日本の地熱資源量は、世界3位(※3)といわれるほど豊富である。日本では1970年代の石油危機をきっかけに地熱発電の開発が続いたが、1999年の八丈島での運転開始を最後に導入が止まっていた。止まっていた主な理由は、「適地が温泉地域と重なる」、「適地が国立公園等と重なる」、「コスト高(開発が長期にわたる、開発初期の探査段階は不確実性が高い、等)」、が挙げられる。しかし再生可能エネルギー導入推進の機運が高まる中、天候に左右されず長期間安定的な電力供給が可能な地熱発電が再び注目されるようになり、国立・国定公園と温泉に関する規制緩和や手続きの簡素化の検討がなされてきた(図表)。

図表 地熱発電に関する規制・制度
図表 地熱発電に関する規制・制度
(注)要望事項の「その他」とは、地方自治事務や科学的要件に関するものなど。
(出所)内閣府 規制・制度改革に関する分科会 2011年12月8日「第2ワーキンググループ(エネルギー)(第1回)」地熱発電 公園・温泉・制度フォロー検討会提出資料をもとに大和総研作成



日本の重要な観光資源の一つである温泉の関係者の間では、地熱発電が温泉に及ぼす影響(湧出量の減少、温度の低下、成分の変化等)への懸念が大きい。一方、地熱発電関係者は、このような「懸念の論拠には評価に耐え得るデータが示されないことが多く、しばしば情緒的であったり、風聞であったりする(※4)」と考えていた。ただし過去の地熱発電関係者の説明不足が温泉関係者の不信を招いたという背景もあり、地熱開発の調査段階で得られるデータの積極的な公開による情報共有の推進等を提言する等、共生の機会を探っていた。


今回のパブリックコメントで一番、多かった意見は、合意形成のための協議会設置や、温泉事業者と地熱開発事業者双方によるモニタリングの重要性が記載されている「関係者に求められる取り組み等」に対するものであった。3月16日に開催された第13回温泉小委員会(※5)でも、温泉関係者からは、協議会設置が努力目標になっていることや、湧出量等をモニタリングすることについて、その重要性は理解するものの零細な事業者には実行不可能、中立性のあるデータか判断するのも困難、といった不安が出ている。これに対して環境省では、都道府県の自主的な判断を尊重(※6)し、各地の実情等に合わせた柔軟な対応とするため協議会設置を強制としておらず、今後は技術的な支援の検討もしたい、としている。


こうした中、地域独自の動きも出ている。2011年9月には地熱開発事業者が、東北復興の観点から東北6県における地熱開発の有望な地域を公表した(※7)。これを受けて、候補に挙げられた地域の一つである磐梯・吾妻地域では、福島県と山形県の温泉事業者等による「磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会」が2012年3月設立された。地熱開発について議論はつくされていないとして、地熱発電開発による影響の研究や、自治体や温泉事業者同士の情報共有を図るのが目的である。

温泉に悪影響のあるような開発は避けるべきではあるものの、地熱発電が電力不足やCO2増加に悩む日本にとって解決策の一つであることも否めない。新ガイドラインのねらいには「関係者間での理解の共有が進められ、また、今後の科学的な議論が一層展開されることを期待」とあり、共生に向けた第一歩となろう。社会的な合意に基づいた地熱発電開発が行われるよう、地熱発電事業者も温泉関係者も積極的に議論に参加していくことが望まれる。


(※1)環境省 地熱資源開発に係る温泉・地下水への影響検討会「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)(案)
(※2)温泉小委員会は「温泉事業者による表示のあり方など温泉に関する喫緊の課題等の検討」を行うために2004年に設置された。
(※3)独立行政法人産業技術総合研究所 「世界と日本の地熱発電早わかり」
(※4)日本地熱学会 「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」
(※5)3月16日開催の第13回は、出席人数が規定数に満たなかったため、懇談会という位置付け。
(※6)温泉法では地熱発電や温泉開発の判断は国ではなく都道府県が行う。
(※7)日本地熱開発企業協議会 「東北6県の地熱開発有望地区について

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