ESGニュース
バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量報告の基準が公開

2011年11月18日

環境・CSR調査部 小黒 由貴子
国際的に認められた温室効果ガス(以下、GHG)排出量の算定と報告の基準を開発し、利用の促進を図ることを目的とするGHGプロトコルイニシアチブが、上流から下流までバリューチェーン全体のGHG排出量算定・報告基準である「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」(以下、Scope3基準)を公開した。目的は、バリューチェーンのGHG排出に関するリスクと機会、さらに削減の機会を識別し、削減目標をたてて、パフォーマンスを追跡し、報告をすることでステークホルダー情報と企業の評判を高めることと、GHG管理においてバリューチェーンと協働することである。Scope3基準の対象は図表1のように、自社の直接・間接排出ではない、バリューチェーン上のサプライヤー等のGHG排出情報である。これら数値の算定・報告に役立つガイダンスやツールとして、Scope3基準排出量の計算ガイダンス(ドラフト)やScope3のGHGインベントリ報告テンプレート見本等が公開されているものの、算定・報告者の実務的な負荷は、かなり高くなることが予想されている。

GHGプロトコルイニシアチブが過去に公開した事業者用の算定・報告基準は、世界的なガイドライン、例えば、CSR報告ガイドラインとして多くの企業に使われているグローバルレポーティングイニシアチブ(以下、GRI)や、GHG排出量開示を求めている投資家の団体カーボンディスクロージャープロジェクト(以下、CDP)、さらに組織の社会的責任のガイダンスであるISO 26000等から参照されている。このため、この事業者用の算定・報告基準の使用はデファクトスタンダードのようになっており、Scope3基準も世界的に使われる可能性がある。

図表1 バリューチェーンにまたがるScope3基準図表1 バリューチェーンにまたがるScope3基準
(出所)Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standardをもとに大和総研作成

日本では、2010年度に環境省と経済産業省が、Scope3基準に関する検討会・研究会を、それぞれ持っていたが、2011年10月からは合同で「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等に関する調査・研究会」(以下、研究会)を開始した 。研究会の目的は、日本の産業の先進性が適切に評価される枠組み作りを促進することである。欧米主導の枠組み作りでは、日本に不利な場合や、日本の強みが生かされない場合があった、という経験が背景にある。研究会では、図表2の論点について議論することとなっている。

図表2 研究会の主な論点
図表2 研究会の主な論点
(出所)経済産業省・環境省 2011年10月11日開催 サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等に関する調査・研究会(第1回)「資料2 サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等に関する調査・研究会について」

研究会では、業種別算定ガイドライン等、Scope3基準を使った算定を行う際に活用可能なツールをとりまとめる分科会や、原単位等の整理・開発の在り方を検討するワーキンググループを設置している。これは、算定・報告作業の負荷軽減を支援する、重要な取り組みといえる。しかしScope3基準は、そもそも企業間比較に使用する基準として設計されていない。従ってサプライヤーからデータが得られない場合は、二次データ(既存のデータベース)を使って推計することが認められる等、「アバウト」な算定・報告方法が含まれる。このため日本の基準作りによく見られる厳密な算定・報告をするための方法やデータベースの充実にばかり焦点をあててしまうと、研究会の目的である「日本の産業の先進性が適切に評価される枠組み作り」につながらない懸念がある。

また研究会の下部組織である「グローバル対応分科会」では、次のような国際的な動向が指摘されていた。

・世界ではバリューチェーンのGHGの情報開示だけでは不十分で、水等の環境負荷情報やCSR項目等も求められている
・年金基金からの要請で、取引ベンダーに法令遵守、労務・人権、環境保全等、幅広い規範の状況報告を義務化しようとしている米国の企業 も現れている

GHGプロトコルイニシアチブでは、サプライヤーと協働するための「Supplier Engagement Guidance」も公開している。企業も、GHGにとどまらない環境全般や社会的な課題に対応しなければいけないという世界的な認識が出てきていることを念頭に、サプライヤーと共にバリューチェーン全体のGHG削減を進めることが望まれる。

(※1)同時に、製品のライフサイクル全体のGHG算定・報告基準である「Product Life Cycle Accounting and Reporting Standard 」も公開している。
(※2)この研究会では、サプライチェーンはScope3基準のバリューチェーンと同義としている。
(※3)ニューヨーク市年金基金の要請で、マイクロソフトがサプライヤーに2013年からサステナビリティ年次報告書を求める。報告書作成にはGRIガイドライン使用を推奨。「Microsoft to Require Annual Sustainability Reporting by Vendors」 

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