イノベーション創出力を高める4つの方法

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  • データアナリティクス部 主任コンサルタント 耒本 一茂

「イノベーション」という言葉は多くの場面で創造性の代名詞として使われるようになった。その意味も多様化し、科学技術分野に限らず社会的分野や個人の生活領域まで、使われる領域は拡大を続けている。経営者は、その言葉や流行に惑わされず「イノベーションの本質」を理解し、イノベーション経営を実践していく必要がある。


イノベーション経営の本質とは、イノベーションを理解し実践することにある。企業経営におけるイノベーションとは、企業の新たな成長の柱となる商品やサービスを開発することであり、会社を持続的に成長させるために不可欠なテーマである。換言すれば、激化する競争環境を生き抜く経営戦略そのものともいえる。しかし、多くの経営者はイノベーションの重要性については理解できても、何から着手すべきか答えを出せずにいるのではないだろうか。


そもそもイノベーションに成功法則があるとは言い難い。イノベーションについて様々な成功事例は紹介されているが、多くは結果論であり、模倣してもうまくいかないことが多い。では、なぜうまくいかないのか。イノベーションが「ヒトという経営資源の配置」と「高い目的意識を持った行動」により達成されるからである。人的要素以外にも業種やビジネスモデルの特性によって、最適なイノベーション創出モデルは異なる。イノベーションの成功法則に明確な解が存在しないのは、この複雑な事情によるところが大きい。つまり、成功するかはわからないが、イノベーションを創出しやすい環境づくりに挑戦してみることこそがイノベーション経営の本質である。


では、イノベーションを創出しやすい環境とは、どのような環境だろうか。様々な企業が取り組んできた事例をもとに、①専門部署設置型、②時間設定型、③企画・提案・コンテスト型、④外部活用型の4つのタイプに分類してみた。これらのモデルを参考に、自社の最適なイノベーション創出モデルを模索し、試行錯誤を繰り返しながら最強チームを築く経営努力をすることが経営者の役割といえる。

イノベーション創出力を高める4つの方法

イノベーション創出力を高める4つの方法

高度な技術や知識、経験が求められる企業では、「専門部署設置型」を採用するケースが多い。研究開発のための専門部署や特命担当者を配置したり、専門のプロジェクトチームを結成したりする。経営戦略でテーマ・方針を掲げるケースが多いが、「時代を先読みしたテーマ設定」ができるかが成功の秘訣となる。また、得られた成果を知的財産として権利化し参入障壁を築くことも重要になる。


「時間設定型」を採用している企業もある。勤務時間の一定時間を新規事業に繋がるアイデア創出や企画のための時間とする「○○%ルール」等の仕組みが代表的だ。挑戦の場を与えることでモチベーション向上や発想力の高い優秀な社員の発掘にも繋がる。


新規事業の立ち上げに積極的な企業では、「企画・提案・コンテスト型」を導入するケースもある。経営陣や従業員から新規事業のアイデアやビジネスプランを募集する仕組みで、やる気のある人間の意欲向上や、プラン作成・プロジェクト遂行能力を高める効果がある。優れたプランを作成した者には、社内ベンチャー設立という選択肢を用意しているケースもある。


社内の経営資源で達成できないなら「外部活用型」を採用する方法もある。社内の人材だけでは同じようなアイデアしか出てこない可能性があるため、カンフル剤として外部リソースを活用することは有効と考えられる。具体的には、アイデアやプランの外部公募、業務提携やM&A、ベンチャー投資育成やジョイントベンチャー設立等の様々な方法がある。文具・アイデア商品等の日用品、創薬関連ではオープンイノベーション型の外部公募を実施しているケースもある。

最強チームをつくるために心掛けるべきこと

イノベーション経営を成功させるためには、イノベーション創出力を高める4つの方法を駆使し、最強チームをつくることが望ましい。ただし、最強チームをつくることは容易ではない。優れた人材を多く集めただけではダメで、それをチームとして連携できるよう結束力を高めなければならないし、成果への執着心を引き出すことも重要だ。


イノベーション創出チームを率いるリーダーには、最強と言われるスポーツチームの監督やコーチのような資質が求められると考える。例えば、メンバーの行動や心理を観察する能力、メンバー同士の信頼を構築する能力が必要だ。これ以外にも、個々の異なる動機に配慮してモチベーションを高める能力、個性を活かして人材を育成する能力、最適な競争心を醸成する能力など、求められる能力は多岐にわたる。リーダーの人選は重要で、経営者自身がこのチームのリーダーとなるのか、社内外から適任者を探すのか、判断が求められる。


イノベーション創出に関わるメンバーの人選も重要になる。同じメンバー同じ仕組みで継続的に実施する際には、数年後にはマンネリ化してしまう可能性が高い。4つのモデルをうまく活用しつつ有効な刺激策を講じる必要がある。また、実施していく中で社内外の優れたイノベーターを発掘したとしても、転職や独立してしまう可能性もある。人材流出を抑制するための工夫や、独立後も連携できる等の仕組みや経営努力が必要なことを忘れてはいけない。


意思決定の仕組みにも工夫が必要だ。不確定要素の多い「イノベーション」のマネジメントは、効率化のみを追求する既存事業のマネジメントとは異なる点を認識しておく必要がある。特に、頻繁に開催される会議は迅速な意思決定を阻害する要因となり、優れたアイデアが埋没してしまう可能性が高い。イノベーション創出力を高めるためには、チーム専用のハイウェイを用意すべきかもしれない。

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