コンサルティングインサイトの読者諸兄は、10月1日が何の日かご存知であろうか?法律で定められた祝日でもないので知らない方も多いかと思うが、「確定拠出年金の日」である。これは、NPOの401k教育協会が、確定拠出年金制度の運営に関わる方々とともに、確定拠出年金を見直すきっかけを作りたいと考え、日本における確定拠出年金制度発足日である10月1日を「確定拠出年金の日」(略称は「日本版401kの日」または「DCの日」)として制定したものである(日本記念日協会に登録)。確定拠出年金(以下、DCという)が発足してから9年が経過し、企業型の加入者数は約360万人に達しており、これに、運用指図者、個人型の加入者・運用指図者を含めるとさらに数字は膨らむのである。


DC制度発足後10年到達が間近であるが、発足以後大きな問題点として次の2点が上げられる。一つは、中途脱退をして手続きを行わず国民年金基金連合会へ自動的に資産が移換される自動移換者の増加の問題、一つは、加入者教育の永遠のテーマであろうDCに対する無関心層への教育の問題である。
ここでは、この無関心層への教育問題、とりわけ「想定利回り」について取り上げるが、結論としては、無関心層に対しては、DC制度の仕組みを制度施行後も、繰り返し教育する必要があるということである。
企業型の事業主は運営管理機関と共同で手を変え品を変え、夫婦参加型ライフプランセミナーやゲーム形式の教育まで取り入れて無関心層のDCへの興味を引き上げようとしているときく。ただ、その結果が即座に反映され分散投資運用等の数字となって現れるかと言うとそうでもないようである。DCへの無関心は解消されず、元本確保型商品での運用比率が相変わらず過半を占めているというのが実態である。


これが、元本確保型の運用を納得しての運用ならば文句は付けまい。しかしながら、昨今のような低金利環境が続き、DC制度の設計上の想定利回りを上回れなかった場合は、退職時の目標額が想定している退職金水準を下回るということに気づいているのであろうか。わが国では、退職金制度からDC制度への移行事例が多く見られる。退職金が原資であるから、「退職時の給付額がいくらか」という発想に基づいて、一定の目標運用利回り「想定利回り」(大体2~3%に設定しているところが多い。)を想定し、DCの掛金水準が決められる事例が圧倒的である。DCへ拠出する掛金は、想定利回りで運用出来て初めて従来の退職金に到達する、という前提で決められている。ほとんどの場合、想定利回りを確保できないと、退職金制度であればもらうことが出来た退職金を目減りさせてしまうのである。


某大手メーカーでは、退職金制度全般について意識・理解の調査をしたところ、DCの想定利回りを知らないとする回答が社員の6割に達したという。このような状況下、加入者の方々には、ぜひとも一定の運用目標である「想定利回り」の概念を理解してもらいたい。


この想定利回りの理解のためには、事業主による制度教育が重要となる。制度教育では、想定利回りにつき十分な説明を行い、退職金制度からDC制度への移行割合がどの程度なのか、退職時の目標金額を明確にイメージさせるべきである。想定利回り・目標金額を理解してこそDCへの無関心層は減り、資産運用に目覚めるのではないだろうか。
加入者は想定利回りを理解せずに元本確保型商品のみで資産を運用していると、退職金が目減りしている、言わば減額されている憂き目に遭うこととなる。その結果、加入者から退職時に「こんなはずではなかった」と事業主に対して訴えを起こさないと言い切れるだろうか。
DC制度は加入者が自己の責任において自分自身で資産を運用していく制度である。そのため、運用の結果次第で資産が増減し、想定していた、目標としていた受取り額が変動するのである。従って、加入者が自分自身で制度の内容・資産運用の方法を十分に理解していることが大前提となる制度である。この理解度を上げるためにも、繰り返しの教育が必要となってくる。


確定拠出年金の日にあたり、今一度、「想定利回り」に注目を促したい。

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