安心・安全な高齢社会は構築できるか?

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政府は5月29日、平成21年版高齢社会白書を閣議決定、国会に提出した。


高齢化の現状と将来像については、わが国の総人口は、平成20年10月1日現在、1億2,769万人で、65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2,822万人となり、総人口に占める割合も22.1%となった。このうち、75歳以上の人口(後期高齢者 注:白書の記述のまま)は1,322万人(男性499万人、女性823万人)で、総人口に占める割合は10.4%と初めて10%を超えた。(因みに東京都の人口が1,297万人であり、東京都民が全員75歳以上という状況に等しい水準である。)


今後の高齢化率をみると、平成67年(2055年)には40.5%、つまり2.5人に1人が65歳以上となり、75歳以上の比率も26.5%と4人に1人が75歳以上の高齢者になると推計されている。


65歳以上の高齢人口と15-64歳の生産年齢人口の比率をみると、現在1:3.3人が、平成67年には1人の高齢者を1.3人の現役世代で支えなければならない状況になる。平均寿命は、現在、男性79.19歳、女性85.99歳が、平成67年には、男性83.67歳、女性90.34歳と女性の平均寿命が90歳を超える長寿社会が到来し、世界のどの国も経験したことのない高齢社会になることが見込まれる。


経済状況をみると、高齢者世帯の総所得は306.3万円で、うち209.4万円が公的年金・恩給で全世帯平均の総所得566.8万円と比較すると、54%であり、平均世帯人員を勘案すると、1人あたりでは大きな差はみられないが、年金収入の割合は37%に満たない。単純な比較はできないが、5月26日社会保障審議会年金部会で示された平成21年財政検証関連資料の所得代替率50%の議論は何か空虚に感じられる。また、今後の高齢者と現役世代との比率からすると、賦課方式の年金財政は維持できるのか疑問を呈さざるを得ない。


高齢者の就業状況についてみると、男子55-59歳で90.5%、60-64歳で73.1%、65-69歳で50.1%となっているが、うち、雇用者の比率はそれぞれ64.9%、44.8%、24.5%であり、まだまだ65歳定年実現には程遠い水準ではないだろうか。


老人医療費は、11兆2千億円と国民医療費の34.0%を占めている。今後、急速な高齢化の進展に伴い、1人当たり医療費の高い(若年層の4.8倍)高齢者が増加することにより、医療費全体の増大は避けられない。また、高齢者の要介護者等数は、65-74歳人口では4.5%だが、75歳以上人口では28.0%と4人に1人は、介護保険制度における要介護または要支援の認定を受けている。さらに、高齢者が多く加入している国民健康保険の保険料は、市町村ごとに決められており、平成20年度最大3.6倍の地域格差が生じ、所得の20%の保険料負担を強いられている地域の加入者もいる。


以上のように、制度の綻びもみられる年金・医療・介護保険制度は、社会保障制度改革として、関係省庁(同一省庁の各局を含め)が利用者の目線で長期的視点に立って、一貫性を持って進めるべきであり、さらに、住まい・交通手段・買い物・コミュニティを始めとした日常生活において、国・地方公共団体・民間企業・NPOおよび家族が、相互に連携しながらそれぞれの役割を果たしていくことが必要である。差し迫る高齢社会の中で高齢者が安心・安全に過ごせるために・・・。

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