赤字債の膨張と地方交付税の遅配で変わった自治体財政の見方

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自治体財政分析において将来負担比率とは、正味の負債額が地方自治体の標準財政規模の何倍あるかを示し、借入過多を判断する指標である。都道府県及び政令市の場合、標準財政規模の400%以上になると「早期健全化団体」に分類される。ローンが年収の4倍になるとアウトということだ。300%を超えると地方債の起債にあたって上位官庁への協議が必要になる。いずれにしても都道府県及び政令市で抵触する団体はない。平成23年度決算においても、47都道府県のうち37団体、19の政令市のうち17団体が前年度を下回っており、着々と健全化が進んでいるように見える。


将来負担比率の算式において、帳簿上の地方債残高にリース負債など簿外債務を足したものを将来負担額という。これに基金など借金返済に回せるものを控除した正味の負債額が将来負担比率の分子となる。注意しなければならないのは、将来負担額の計算から一部の借入金が除かれていることだ。政令市の場合は都市計画税の控除も大きい。


将来負担比率の算式は次のようになっている。分子から「地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額」、分母から「元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額」が控除される。簡単にいえば、その当年度返済額が地方交付税の算定式に加えられる地方債について、その残高と返済額が調整項目になっている。


この中で一番大きいのが「臨時財政対策債」であり、残高のすべてが将来負担額から控除されている。将来負担比率の分母、つまり将来負担額の大きさの基準となる標準財政規模には臨時財政対策債の発行枠が含まれ、その分嵩上げされている。通常の地方債は公共施設の整備の財源になるが、臨時財政対策債は人件費はじめ経常支出の不足分に充てられるもので、いわゆる赤字地方債である。



平成23年度における政令指定都市の将来負担比率を、臨時財政対策債による影響を取り除いて再計算してみた(※1)。およそ40~70ポイント押し上げることがわかる。対象をひろげ交付税措置の影響をすべて取り除くと、団体によりバラツキがあるものの平均して年収1年分の将来負担が積み上がる。比率を最大150ポイント押し上げ、半分以上の団体で300%を超えた。健全化判断基準である400%以上になる団体もある。

平成23年度決算における政令市19団体の将来負担比率
平成23年度決算における政令市19団体の将来負担比率

将来負担比率は、帳簿上の地方債残高のみならず、地方公営企業や第三セクター等の負債のうち将来負担すると見込まれるものを含めているのだが、一方で控除項目も大きい。地方債残高を100とすると、簿外債務を含めた将来負担額は139.4となるが、いろいろ控除されて将来負担比率に反映されるのは43.2で帳簿上の地方債残高より小さくなる。なかでも、後年度に交付税措置されるがゆえに控除されるものが大きい。とりわけ赤字地方債である臨時財政対策債に注意が必要だ。借入金総額はここ10年横ばいである中で臨時財政対策債は増加の一途をたどっている。近年そのペースを上げつつあり、全国ベースでみれば既に地方債全体の5分の1を超える水準である。

平成23年度決算における政令市19団体の将来負担額の構成比
平成23年度決算における政令市19団体の将来負担額の構成比


さらに、返済に必要な分が地方交付税で手当てされるがゆえの控除であるが、これは将来に渡って盤石か。この秋に生じた地方交付税の遅配という事態を踏まえれば油断できまい。地方交付税は例年4、6、9、11月の第2営業日に国から地方自治体に支払われる。今年の9月分、通常なら4日の予定が実際支払われたのは10日である。そのうえ道府県分は3分の1しか払われず、残りは翌月、翌々月の分割払いになった。11月分も遅れ19日の入金。このときは、不払い状態が月越えし職員のボーナスが遅れることを心配する声もあった。


はからずも明らかになったことが2点ある。ひとつは、地方交付税の資金源が赤字国債だったこと。もうひとつは、地方自治体に資金ショートがあり得ることだ。今回は赤字国債法案が通らないのが原因であったが、こうした偶発的な要因でなく、たとえば国の債務膨張でこれ以上赤字国債を増やせないとなった場合はどうだろうか。わが国には地方自治体の破産制度がないことをもって「倒産」はないと言われてきた。狭い意味でいえば確かにそうだが、地方交付税の遅配が長引いた末の資金ショートはあり得る話だ(※2)


地方交付税の原資が赤字国債であり、赤字国債が無尽蔵に発行できるものでないとしたら、地方交付税で返済が手当てされる前提も確実ではない。だからそうした借入金も含めた将来負担比率もあえて見るようにしたい。地方交付税のショートは「想定外」かもしれないが、念のため対処するにこしたことはないだろう。一番よいのは、行政キャッシュフロー計算書で実態把握することだ。財政融資の貸し手である財務省が、融資審査の観点で自治体の財政状況をみるのに使っているものである。返済能力の判定に必要なのは「事実」であり建前は要らない。行政キャッシュフロー計算書のストック指標、有利子負債月収倍率の実質債務の範囲は、地方債残高に簿外債務を加算し、控除するのは充当可能基金までである(※3)。今後インフラ老朽化を背景とした更新投資などで財政支出が拡大する見込みもある。まずは自治体財政にその余裕があるか今一度の検討をおすすめしたい。


(※1)将来負担額に臨時財政対策債の残高を足し戻した。標準財政規模は、そのうち臨時財政対策債の発行枠で嵩上げされた部分を削除した。算式は次の通り。

交付税措置の影響をすべて取り除いたものは、将来負担比率の算式から「地方債現在高等に係る基準財政需要額算入見込額」と「元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額」を単純に除いて計算した。算式は次の通り。
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(※2)地方自治体が、全期間固定金利で借りた財政融資を繰上返済するにあたって通常支払うべきペナルティ金利の支払いを免除される「補償金免除繰上償還制度」がある。これも一種の金利減免であろう。財政制度審議会財政投融資分科会(平成24年11月20日開催)議事要旨も参照されたい。
自治体の資金ショートの未然防止と管理会計については、2010年8月4日付コンサルティングインサイト「自治体のキャッシュフローマネジメントのすすめ~手元資金ベースの地方公会計とその活用についての提案」を参照のこと。


(※3)行政キャッシュフロー計算書については、2012年6月6日付コラム「自治体のキャッシュフロー分析 ~レベニュー債、新型PFIと一体の財務分析パラダイム~」など多数執筆しているため、参照されたい。

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