プライベート・エクイティ・ファンド 真価が問われる重要局面へ

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 田代 大助

昨今の金融危機の影響で、M&A市場の急速な縮小とともにプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEF)にもネガティブな影響が及んでいる。PEFが関与したM&Aの総額は、2007年には約7,600億ドルと高水準にあったが、今年はこのままのペースで行くと約630億ドルと2007年の12分の1に止まる見込みである。もっとも、1案件当たりの規模では、足下で復調の兆しも見える。昨年9月以降の案件規模は平均して約2,000万~3,000万ドルで推移していたが、本年3月には平均約4,500万ドルへと上昇している。各国政府や中央銀行が金融危機に対応して、数々の緊急措置を相次いで発表・実施した効果もあって、金融資本市場は落ち着きを取り戻し始めている。世界的な景気後退についてなお予断を許さないものの、滞っていた資金が少しずつ循環し始めているのかもしれない。


PEFには、成長や再生が見込まれる企業及び事業等にリスクマネーを供給するという、広義の金融仲介者として経済活性化に寄与する役割が期待される。実際、日本でも2002年に政府が構造改革の一環で示した方針の中で、市場原理を通じて行われる企業再生や産業再生の例として再生ファンドの活用が謳われ、不況克服に一役買った経緯がある。また、地域再生やインフラ整備の面でもファンドの活用が挙げられている。現状のような景況悪化局面では、PEFにとって存在感を示すチャンスと言える。金融システムへの不安が拭い切れない中、既存の金融機関や資産運用会社とは異なるアプローチから案件を手掛け、革新的な働きをするファンドが活躍できるフィールドは、まだ多く残されている。


過半数以上の発行株式を取得し経営権の獲得を図るというPEFの基本的な投資手法を考えれば、投資先のポテンシャルを的確に評価・発掘すると同時に、その価値の顕在化や向上に資する高度なスキルやノウハウが求められる。一方でまた、新たなリスクマネー提供者、つまりスポンサー開拓の必要性に迫られているのもまた事実だろう。欧米においてPEFの主要なスポンサーである年金基金は、成熟化が懸念されている。年金給付負担の増大により、長期資金を基本とするPEFへの投資は、年金基金にとって必ずしも有効な運用手段とは言えなくなりつつある。空前のLBOブームが過ぎ去った現在、資金調達手段の多様化を進め、本来自身が持つ社会的使命を共有する投資家の裾野を拡大させていく姿勢がPEFには求められる。そして、それは経済活性化の上でも大きな意味を持つ。


上述したPEFが関与したM&Aが大きく減少している事実は、資金力等を背景にPEF業界内の淘汰や選別がある程度進行したことの表れと見ることができる。事実、昨秋以降PEFが関与した案件規模は、世界におけるM&A全体での一件当たり規模を大きく下回る状況が続いている。ただ、昨今のPEFが関与したM&Aの割合は、件数ベースでは金額ベースに比べて緩やかな低下に止まる。しかも低下したとはいえ、PEFが資本市場で大きく注目され始めた2003~2004年と同水準になったに過ぎない。また、PEFの案件規模の低下は、ディストレス的な戦略で廉価案件への投資姿勢を強めている可能性をも示唆する。多くのPEFが金融危機収束後に高パフォーマンスを獲得するとの期待も強ち的外れではないかもしれない。無論、現在の金融危機下における投資結果が果たしてどうなるか、それは今後徐々に明らかとなっていこう。


危機脱却後に金融資本市場におけるPEFの地位を確固たるものにできるか、スポンサー開拓や投資能力の真価が問われる重要局面が訪れたと言えそうだ。

図表:世界のM&AにおけるPEF(※)の関与状況

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