平成24年金融商品取引法等改正に係る適時開示の変更点について

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 遠藤 昌秀

平成24年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令が平成25年9月6日より施行された。今回の改正は、①インサイダー取引規制関係、②課徴金制度関係に関連するものである。そのうち、インサイダー取引規制関係では、純粋持株会社等に係る重要事実の軽微基準と企業の組織再編に係るインサイダー取引規制について見直されることになった。上場会社が純粋持株会社等(特定上場会社等)に該当するためには、有価証券報告書の損益計算書において関係会社に対する売上高(※1)(製品売上高及び商品売上高を除く)が80%以上(※2)であるここと、事業の内容において、その旨及びその内容を具体的に記載することとされている(※3)


適時開示の開示項目の中には、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令に定める事項に該当した場合には、直ちにその内容を開示しなければならない(※4)とされており、ここでは純粋持株会社等に係る重要事実の軽微基準が見直されたことによる適時開示の変更点について取り上げるものである。


東京証券取引所から公表され、平成22年6月30日より施行した「四半期決算に係る適時開示の見直し、IFRS任意適用を踏まえた上場制度の整備等について」では、これまで上場会社が連結財務諸表提出会社である場合でも適時開示に係る軽微基準はインサイダー取引規制と同様に単体財務諸表における数値を用いてきたが、それ以後、連結財務諸表における数値を用いることにすると同時に、インサイダー取引規制上の重要事実に該当する会社情報については、適時開示が必要であることを明確化するように有価証券上場規程施行規則を改正した。


そのため、連結財務諸表提出会社である上場会社にとって、決定事実や発生事実の開示項目の中には適時開示すべきかどうかを判断するためには連結財務諸表の数値基準について確認するとともに、インサイダー取引規制上の重要事実に該当するかどうかの確認が必要なものも含まれている(※5)


こうした状況下において、純粋持株会社の形態を採用する上場企業は、組織設計する上で企業集団の規模と比較すると小さくなることは必然的であり、持株会社体制への移行前では適時開示の軽微基準に該当していたものが、移行後には適時開示する必要があるケースが数多く存在しているように思われる。そのため、今回の改正によって、上場会社である純粋持株会社の決定事実及び発生事実に係る適時開示は、施行日の平成25年9月6日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書を提出した上場会社が特定会社等に該当する場合には、インサイダー取引規制上の重要事実も連結財務諸表の数値基準によって判断されることになり、純粋持株会社等にとってより実態に即した適時開示が可能になると思われる。


ただし、上場会社の決定事実、発生事実に共通する開示項目である「その他上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事項」については、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、開示府令)第19条第2項第12号(※6)又は第19号の規定に基づく事由で臨時報告書が提出される事実が存在する場合、その内容を適時開示することが義務づけられている。例えば、純粋持株会社が子会社から受け取る配当が前年度との比較において大きく変動する場合においても連結損益に影響を及ぼすことがないものの、本件に関して臨時報告書の提出が必要となるため、適時開示を行う必要がある。このように、単体の数値基準を用いて適時開示するかどうかを判断すべき点が残されている点については引き続き留意しておくべき事項であると考えられる。


(※1)経営指導料や配当金、不動産賃貸収入等が想定される
(※2)有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第49条第2項
(※3)パブリックコメントにおける記載例として、「特定上場会社等に該当することにより、インサイダー取引規制の重要事実の軽微基準については連結ベースの数値に基づいて判断することとなる」ことなどを記載するhttp://www.fsa.go.jp/news/25/syouken/20130830-3/00.pdf参照
(※4)東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック2013年7月版」
(※5)上場会社の決定事実では、「業務上の提携又は業務上の提携解消」や「子会社の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得その他の子会社等の異動を伴う事項」などが、上場会社の発生事実では、「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」や「訴訟の提起又は判決等」などが該当する
(※6)提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象(財務諸表等規則第8条の4に規定する重要な後発事象に相当する事象であって、当該事業の損益に与える影響額が、当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の100分の3以上かつ最近5事業年度における当期純利益の平均額の100分の20以上に相当する額になる事象をいう。)が発生した場合

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