2巡目を迎えた議決権行使結果の臨報開示

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  • 藤島 裕三
2011年6月の株主総会シーズンが終了したことを受けて、臨時報告書(臨報)の提出によって同総会の議決権行使結果が開示された。2010年3月施行の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の適用対象である上場会社は全て、同法による初回の情報開示を済ませた上で、6月総会の企業から2巡目を迎えたことになる。

大和総研企業経営コンサルティング部では、TOPIXcore30採用企業(東証一部全銘柄のうち流動性・時価総額が特に高い30社)を対象として、2011年に提出された臨報による議決権行使の結果開示を確認した。本年に開催された定時株主総会においては、合計で505議案が上程された(役員選任議案は候補者ごとに1議案とする)。このうち会社提案は444議案で全て可決、株主提案は5社で計61議案あり全て否決となった。

各議案の平均賛成率を議案別に昨年対比で確認してみる。剰余金処分案は昨年と同様に、全体的に反対票が少なく、ほとんどの企業において全議案中で最も賛成率が高い。定款変更も多くは剰余金処分案と同じく賛成率が高かったが、事業目的を追加する議案を上程した1社においては、剰余金処分案の賛成率を大きく下回った。

社外取締役選任議案は昨年から引き続き、相対的に低い賛成率となった。候補者が過去にトップとして属していた企業との取引関係を問題視する、その取引関係についてもメインバンクなどに止まらず広範に捉えるなど、投資家が独立性を厳しく判断したためだと考えられる。社外監査役選任議案に関しては、今年になって賛成率が低下した。候補者の人数が昨年より増加した分、独立性が疑われるケースも目立った模様。

退職慰労金贈呈議案は一般に反対票が多いが、TOPIXcore30採用企業で上程した例は、本年は見られなかった。ストックオプション付与議案については、大幅に賛成率が改善した。インセンティブ報酬制度を評価する観点から、1円ストックオプションに対する反対票が減ったと見られる。なお買収防衛策の承認議案は1社のみに止まった。

株主提案の平均賛成率は、昨年と同じ水準となっている。多くは1桁の賛成率に止まったが、25~40%と比較的賛成率が高い議案もあった。事業報告における役員報酬の個別開示、株主提案に際する提案理由の字数制限など、株主の権利を尊重する内容の株主提案が上程されれば、機関投資家としては賛成せざるを得ない。これらの議案には、機関投資家の議決権行使ガイドラインなどを丁寧に分析した形跡も見られる。

また今年の新しい動きとして、株主総会の当日に「議決権行使確認用紙」などを配布、回収して出席株主全員の賛否を集計した事例が出現した。社数こそ3社だが、昨年のゼロからは目立った変化であるし、TOPIXcore30採用企業の1割に相当する。機関投資家は株主を重視する姿勢の一環として、当日集計を根強く求めている。

今回の総会シーズンにおいて、議決権行使の臨報開示を通じて見えてきた、投資家から企業に対する要求は明らかである。1つ目はガバナンスの独立性を高めること(一般株主の利益を代表する社外取締役および社外監査役の選任)。2つ目は役員報酬を株主価値と連動させること(ストックオプションなどの活用)。3つ目は株主重視の姿勢を示すこと(株主提案で挙げられた内容の検討、当日行使された議決権の集計)。

実際に定時株主総会において議案が否決に追い込まれることは稀だろうが、例えば創業家や取引先、株式持ち合い先など関係株主を除いた純投資家(外国人など機関投資家、個人)の過半数が反対したと見られる状況であれば、経営側も深刻に受け止めるべきではないか。各企業においては目先の株主対応や総会対策に止めず、継続的に発展を遂げるためのインフラとして望ましいガバナンス像を検討されたい。

ところで金融商品取引法は公衆縦覧の期間として、臨報については1年間と規定している。この規定に基づいて既にEDINETでは、昨年の議決権行使に関わる臨報を閲覧することができず、投資家の利便は著しく損なわれている。規制当局においては早急に状況を改善するべく、立法上の手当てを進めることを期待する。

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