民主党政権下の医療保険制度改革の行方は?

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  • 菅原 晴樹

民主党は、マニフェストで年金・医療・介護の不安をなくし、誰もが安心して暮らせることを実現するため、多岐にわたる政策を掲げている。


その中で、医療保険制度改革については、年齢で差別する制度を廃止して、医療制度に対する国民の信頼を高め、医療保険制度の一元的運用を通じて、国民皆保険制度を守ることを政策目的としている。具体策としては2008年4月に施行された後期高齢者医療制度・関連法は廃止する。廃止に伴う国民健康保険の負担増は国が支援する。被用者保険と国民健康保険を段階的に統合し、将来、地域保険として一元的運用を図る。マニフェストの工程表によると、後期高齢者医療制度廃止については、財源を確保しつつ、順次実施するとしている。


従来の高齢者医療制度は、1983年に施行された75歳以上の高齢者を対象とした「老人保健制度」と60歳以上75歳未満の退職者を対象とした「退職者医療制度」により運営されてきた。


後期高齢者医療制度は、前期高齢者医療制度とともに、2008年4月1日に「老人保健法」が「高齢者の医療の確保に関する法律」に改正されたうえで、新たな高齢者医療制度の創設と医療費適正化対策の総合的推進を図る目的でスタートした。


現在、被保険者数は1350万人と日本の人口の1割を超え、今後更に増加することが予想される。費用負担は、自己負担を除く給付費について後期高齢者の保険料(1割)、公費(約5割、内訳は国:都道府県:市町村=4:1:1)、現役世代の後期高齢者支援金(4割)で賄われている。医療費は約12兆円に及んでおり、国民医療費全体の1/3を占めるに至っている。


長妻厚生労働大臣は、10月8日後期高齢者医療制度を2012年度末に廃止し、2013年度から新制度に変える方針を固めた。新制度導入のための法案を2011年度の通常国会に提出する予定としている。また、10月9日の記者会見で、10月中に新たな検討会を設置する意向を示した。


民主党政権下の医療保険制度改革は、職域、地域、年齢で分立している制度を地域ごとの保険に再編成する地域医療保険構想であるが、解決すべき問題は多々ある。韓国でも、2003年に職域保険と地域保険を「国民健康保険公団」として統合したが、その後、自営業者と被用者の保険料負担の公平性が確保できず、保険財政は一本化されていない。


改革の全貌は明らかにされていないが、自営業者を中心とした国民健康保険、サラリーマンを中心とした協会けんぽ・健康保険組合の一元化の中で高齢者医療制度を包含することが想定される。その場合、1480以上もある健康保険組合はどうなるのか?厚生年金基金の代行返上で見られたように、法定給付部分を一元化の対象とし、付加給付と保険事業を独自給付とする組合健保として、形骸化されてしまうのか?さらに、年金の一元化と平仄を合わせて、公務員共済制度の短期給付である医療保険制度も含めた議論をするのか?


80年以上の歴史を持ち、企業独自の運営と財政的自律の中で、従業員の健康維持・増進を図り、経営効率・企業価値向上、ひいては日本経済成長に寄与してきた健康保険組合の役割は、今後一層重要性を増すものと考える。医療保険制度改革は、年金制度と同様に複雑な連立方程式を解く困難さが伴う。検討に十分な時間をかけて、国民が納得できる改革ビジョンを示して欲しいものである。

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