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チャイナプラスワン時代のアジア新興国・人材マネジメント

2011年04月20日

アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 芦田 栄一郎

中国ビジネスにおける様々なリスクを分散化または低減化するために、ビジネスの一部分をASEAN諸国等新たなアジアの第三国へ移転することを検討する日系企業が増えている。中国に事業投資を継続しながらも、別の国へ新たな事業投資を行う企業の動きは、チャイナプラスワン(China plus one)と呼ばれている。このチャイナプラスワンを検討する日系企業の背景には、中国における「沿岸部の人件費高騰」「良質な労働力確保の難化傾向」「定着率の悪さ」「労働争議・ストライキ対策に苦慮」など、労務管理や人材マネジメントに起因することが多い。本稿では中国進出を果たしている日系企業がASEAN諸国等アジアのプラスワン新興国へ企業進出する場合の主要な留意点を人材マネジメントの観点から整理した。

中国から「プラスワン国」へ展開する場合における人材マネジメント上の留意点

1.人件費
中国とプラスワン国の賃金を単純比較するのではなく、福利厚生費や優遇政策等を含めた「トータル人件費」比較が必要である。また可能であれば、国の平均数値ではなく、都市別の人件費推移や職種別のデータを整えて比較検討する。また傾向を知るためにも直近5年分以上の人件費推移を検証することが望まれる。

2.労働力の確保、定着率
自社の採用計画を満たす労働力が確保できるか、リサーチすべきである。会社新設に関する費用の低コスト化を追求するあまり、労働人口が少ない地域へ進出するケースは特に注意を要する。また定着率についても、企業の努力で改善できる場合もあるが、国民性に依存する部分も少なくないので新規に進出する場合は事前調査することが望ましい。

3.経営幹部の確保
新進出国における経営幹部や現場の優秀な管理職の確保は特に重要である。現地採用での確保を目指す方法もあるが、既に中国進出を果たしているのであれば、中国企業で実績ある幹部を中国からプラスワン国へ異動させる方法もある。ノウハウの移転等もスムーズに進み、経営に成功している日系企業の実例も多くある。

4.トレーニングのしやすさ
プラスワン国では、トレーニングのしやすさや職業訓練の観点も考慮すべきである。現地の使用言語はもちろん、識字率や知識水準、人材育成体制の整備等を考えると、中国進出を行った時に要した以上に、エネルギー負荷が大きいことがあることを覚悟しなければならない。            

5.新進出国独自の文化・習慣・宗教
新進出国独自の文化・習慣・宗教が労務管理に影響を与える場合も少なくない。例えば、ミャンマーでは国民の約9割が仏教徒で一般的に温和な性格の人が多い。そして、労働組合運動やストライキは実質的に法で禁止されている。
またインドネシアにはムスリム(イスラム教徒)が多いため、宗教的義務であるお祈りを行う労働者のために十分な機会を与えなければならないと労働法第80条(ACT NUMBER 13 YEAR 2003)に定められている。このように各国の法律に則し、現地の事情に適合した社内対応が求められる。          

以上、労務管理・人材マネジメントだけに着目してもクリアしなければならない課題が多くある。したがって、「中国より安価な労働力を求めて」「労働争議・ストライキを回避するために」など、ある一面からの事由からアジア新興国への事業投資を決断するのは早計である。        

中国からプラスワン国への展開は念入りな事前調査と綿密な事業計画の下に実行されるべきである。       


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