中国での介護福祉ビジネスにおける日本企業の商機

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-日本の介護福祉の概況


2001年度にスタートした介護保険制度に基づく要介護者、要支援者の認定者数は、2014年度末時点で合計600万人を突破した(※1)。同じく2014年度の介護費の総額は9兆7,624億円に達しており(※2)、10兆円突破も見えてきている。日本人の約50人に1人が要介護者・要支援者であり、また、介護費の総額は名目GDPの2%弱に相当する規模である。日本の介護福祉業界がいかに巨大であるかが理解できる。


介護福祉は“ヒト”によるサービス提供がその基本である。介護福祉業界では、介護支援専門員(通称:ケアマネージャー)をはじめ、介護福祉士、社会福祉士、福祉用具専門相談員等など、様々な資格、専門職が設定されている。このことから要介護者、要支援者に対し、役割に応じて細分化された専門的なサービスが提供されていることが分かる。サービスだけでなく“モノ”に目を向けても、車いす、電動ベッド等の福祉用具の機能性は他国よりも優れていると聞く。機能性に関しては諸外国に対し高い競争力があると思われる。となれば、日本の介護福祉分野のサービスやモノの海外展開に関し、業界の期待も高いのではないだろうか。


-高齢化社会を迎えた中国


ところで、中国における65歳以上の人口は2013年に総人口の9.7%となり、1億3,000万人を突破した(図表1)。つまり、既に日本の総人口よりも中国の65歳以上の人口が多い。更にその数は今後も増加の一途を辿ると予想されており、2020年には1億7,000万人、2030年には2億4,000万人に及ぶとの推計もある(※3)。全国老齢工作委員会弁公室発表のデータによれば、中国のシルバー産業全体の市場規模は2010年に1兆4,000億元(約26兆円)であり、2020年には4兆3,000億元(約80兆円)にまで拡大するとされている。必然的に介護福祉分野の市場規模も相当な規模に拡大することが容易に予想できる。


一方で、介護福祉関連制度の整備や、介護施設・介護サービスの充実、人材育成等、高齢化社会に適切に対処するための社会基盤整備が、先進国と比較し後れを取っていることが指摘されている。無論この課題を中国の行政機関や業界関係者も十分認識しており、第12次5カ年計画(2011-2015)では介護福祉分野の強化方針が盛り込まれている。中国における本分野の社会基盤整備は待ったなしの状況と言えよう。ただし、自国のみでの現状打破には限界もあると思われ、先進国による積極的な技術協力や事業進出は必要不可欠と考えられる。


-日本企業に商機はあるか


中国消費者の日本製品や日本のサービスに対する信頼感はよく報じられている通りである。その流れで行けば、介護福祉分野でも同様に日本の介護サービスや福祉用具のニーズは非常に高いのではないかと予想できる。実際、既にいくつかの日本企業が中国に進出し、現地でビジネスを展開しているようである。だが、価格競争力や現地人材の育成、制度面など、恐らく様々な課題も存在するであろう。また、中国には日本の介護保険制度と同様の制度が存在しないため、日本のように市価の10分の1の料金で介護サービスを受けるようなことはできない。従って自ずと良質の介護サービスを受けることができる利用者も富裕層などに限定されることが考えられ、日本企業がターゲットにできるマーケットは今のところ限定的かもしれない。


しかしながら今後の中国の経済発展を見据えれば、中長期的には国民全体の富裕度も今より上昇し、購買力もさらに向上するであろう。よって、短期的ではなく中長期的な観点で中国の介護福祉市場を捉えれば、マーケットを開拓できる可能性は高いのではないか。日本の介護福祉産業の発展の一環として、中国市場の開拓に期待したい。

中国における65歳以上人口および総人口に対する比率

(※1)厚生労働省発表の「介護保険事業状況報告 平成27年3月分」による。
(※2)公益社団法人 国民健康保険中央会発表の「介護費等の動向(平成26年度年間分)」による。
(※3)中国人口情報センター発表の情報による。

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